最低賃金裁判 最高裁・不当判決にあたっての声明
2017年10月20日 最低賃金裁判原告団・神奈川県労働組合総連合
1 歴史上初めて闘われた最低賃金1000円以上を求める裁判の上告審において、10月18日、最高裁第三小法廷から、上告棄却・上告申立不受理の判決文が通知された。判決文は定型の三行半のもので、極めて不当不誠実なものである。低賃金で苦しむ多数の労働者が、憲法と最低賃金法に違反し生活保護を下回る最低賃金について、裁判所に訴えることを認めないという司法の責任放棄を確定するものである。
2 最低賃金ぎりぎりで働き生きることにより命や健康が破壊される深刻さ、自立も結婚もできない、将来の希望ももてない、友人との付き合いや趣味など社会的文化的な生活ができない、この実態を2011年6月の提訴以来、原告らは裁判官に赤裸々に語り続け、その根本原因である国による最低賃金の憲法違反の異常な低額放置を断罪し、最低賃金を少なくとも1000円以上にひきあげる歴史的判決を強く求めてきた。しかし、第一審の横浜地裁判決、第二審の東京高裁判決は、いずれも最低賃金の改正決定について処分性が認められないとして、訴えを却下し、最低賃金の水準が生活保護の水準を下回る逆転現象が解消されているか否か、ひいては生存権や勤労権の侵害が生じているか否かについて判断することを回避した。
3 弁護団は、最高裁への上告にあたり原判決の判断は「上告人らの裁判を受ける権利」を侵害していることを強く主張した。一審において国は、最低賃金の水準が生活保護の水準を下回る状態にある事実を認めた。勤労収入によって「健康で文化的な最低限度の生活を」営めないことは、最低賃金法9条3項に反するのみならず、憲法上の権利を侵害することである。裁判所が人権侵害に対する救済を拒否し、本案に関する司法判断から逃げることは、国民の権利救済を目的とする司法の役割、人権保障の最後の砦としての職責を放棄することである。そして、司法判断を回避する理由として原判決が述べた「処分性要件の理解」が全くの誤りで、これまでの最高裁判例とも矛盾するものである。さらに、本件は労働者からの提訴であるが、使用者側が「最賃額が高すぎる」として最賃改正決定を争う場合、最賃改正決定に処分性を認めない限り、使用者が最賃額を訴訟で争うこともできない。まさに実効的権利救済が図れないことを、道理を尽くして主張した。
4 神奈川の最低賃金は提訴時の2011年から138円引きあがり956円となった。「最低賃金1000円以上!」という原告らの訴えは、日本全国の低賃金労働者の切実な要求を代表し、この間の最低賃金引上げの世論と運動を大きく動かす原動力になってきた。しかし、依然として日本の最低賃金は人たるに値する額ではなく、ワーキングプアを拡大し多数の労働者・国民を貧困に縛り付ける悪魔の鎖となっており、憲法と最賃法違反の状態にある。憲法25条生存権と同27条勤労権、13条幸福追求権を蹂躙し、格差と貧困を拡大させる国の責任をあいまいにすることは絶対に許されない。我々は今回の不当判決を乗り越え、最低賃金時間額1500円めざし、ただちに1000円実現の運動を推進する。そして全国一律最低賃金制度の早期実現にむけ、すべての労働者・国民との連帯と共同を広げて闘い続けることを宣言し、声明とする。