東京高等裁判所(第20民事部・山田俊雄裁判長)は、憲法違反の貧困最賃に対し、責任を放棄する不当判決を行いました。低賃金で苦しむ多数の労働者が、憲法と最低賃金法に違反し生活保護を下回る最低賃金について、裁判所に訴えることも許さないという一審・横浜地裁判決を追認する不当な内容です。
判決後には、裁判所に対して怒りのシュプレヒコールを行い、その後に「最低賃金上げろ」「パート賃金上げろ」「バイトの賃金上げろ」「憲法25条守れ」などのコールで新橋駅までデモ行進しました。
判決報告集会では、弁護団から「私たちの主張に全く向き合わない判決」「最低賃金をめぐる社会問題の中で司法の出番であるのに行政べったりの判決」など司法を厳しく糾弾しました。原告は「声を上げることのできない仲間の期待を大きく裏切る」「働き生き続ける辛さを訴え続けたが裁判長には届かなかった」「司法に期待せず最低賃金ぎりぎりで働く仲間と運動で大きく前進する」と今後もたたかい続ける決意が述べられました。
【神奈川労連・声明】
最低賃金裁判 東京高裁判決にあたっての声明
2016年12月7日 最低賃金裁判原告団 神奈川県労働組合総連合
(1)歴史上初めて闘われた最低賃金千円以上を求める裁判の控訴審において、東京高裁第20民事部山田裁判長は、再び原告の訴えを却下する不当判決を行った。これは、低賃金で苦しむ多数の労働者が、憲法と最低賃金法に違反し生活保護を下回る最低賃金について、裁判所に訴えることも許さないという司法の責任放棄の原判決を追認する極めて不当なものである。
(2)被告国は東京高裁で出した書面において、何ら新しい論点は示すことができなかった。原告側弁護団からは一審判決の不当性について、処分性と、原告らの生活と労働実態に照らし身体生命に重大な損害を与えており司法での救済の必要性があること、この2点から原判決批判と憲法に基づく正当な主張がされた。さらに、原告を代表し猪井さんが「裁判長,私たちは,楽をして日々を過ごしたいなどということは望んでいない。ただ,人としての尊厳を,プライドを持った暮らしをしたいと切に望むものです。私たちの,そして必死の思いで日々を働いて過ごしている多くの低賃金労働者の置かれた境遇に思いを馳せて,今度こそ,どうか公平公正な判決を下してください。」と訴えた。全国から多数の「原審破棄、横浜地裁差し戻しを求める」署名が寄せられ、神奈川県内はもちろんのこと全国で最低賃金ぎりぎりで働く労働者が「最低賃金では生きていくことができない。憲法と最低賃金法に違反する状態を何とか救って欲しい!」という声に、司法が救済する道を開くのか否かが問われる判決であった。
(3)今回の判決は、原告側の主張に一切耳を貸さず、横浜地裁一審判決を追認し、司法の役割を放棄する全く不当なものであり強く抗議するものである。
(4)最低賃金ぎりぎりで働き生きることにより命や健康が破壊される深刻さ、自立も結婚もできない、将来の希望ももてない、友人との付き合いや趣味など社会的文化的な生活ができない、この実態を原告らは裁判官に赤裸々に語り、その根本原因である国による最低賃金の憲法違反の異常な低額放置を断罪し、最低賃金を抜本的にひきあげる歴史的判決を強く求めてきた。
(5)神奈川の最低賃金は提訴時の2011年から112円引きあがり930円となった。罰則付きで強制適用される最賃法の意義と機能により賃金引き上げの直接的影響を受ける労働者は年々拡大し今年10月の25円引上げで18.8%=約75万人の賃上げがされた。「最低賃金1000円以上!」というささやかな原告の訴えは、日本全国の低賃金労働者の最低限、待ったなしの要求である。憲法25条生存権と同27条勤労権、13条幸福追求権を蹂躙し、格差と貧困を拡大させる国の責任をあいまいにすることは絶対に許されない。
不当判決を乗り越え、最賃時間額1500円めざし、直ちに1000円実現、憲法違反の是正を求めて国の責任を厳しく問い続ける。そして、世界の常識である生計費原則の最賃額確保、新たな全国一律最低賃金法の立法化の運動を、すべての労働者・国民との連帯と共同を広げて闘い続けることを宣言し、声明とする。
【最低賃金裁判弁護団・声明】
2016年12月7日
最低賃金裁判弁護団
1(判決の結論)
本日、東京高等裁判所第20民事部(山田俊雄裁判長、鈴木順子裁判官、菊池章裁判官)は、神奈川県の地域別最低賃金を1000円以上に引き上げることを求める最低賃金裁判において、控訴人らの控訴を棄却する判決を言い渡した。
この判決は、最低賃金の改正決定について、最低賃金が低すぎることによって現実に損害が生じていても、司法による救済の可能性を閉ざしてしまうものであり、極めて問題のある判決である。
2(判決の内容)
今回の判決は、最低賃金の改正決定について処分性が認められないことを挙げて、原判決と同じく訴えを却下した。
処分性は、行政庁の行為を抗告訴訟として争うために必要な要件であるが、原判決は処分性を認めるために、限られた特定の者を名宛人とすることという要件を不当に加重しており、これまでの最高裁判決にも違反するものであった。
今回の判決は、独自の審理を全くすることなく、原判決の誤りを是認するものであり、処分性に関して積み上げられてきた最高裁判決の到達点を無視した不当なものである。
3(まとめ)
最低賃金裁判は、低賃金による労働のために困難な状況に置かれた労働者らが、最低賃金の引き上げによる勤労権、生存権、幸福追求権などの憲法上の権利の保障と実現を求めて立ち上がった裁判である。
最低賃金の大幅な引き上げが実現しないことにより生じる損害は、事後的な金銭賠償によって回復できるものではなく、可及的速やかに最低賃金の大幅な引き上げを実現しなくては、多くの国民に、貧困による損害を更に生じさせていくことになる。
このような国民の基本的な権利に直結する重大な問題である最低賃金の改正決定について、司法による救済の可能性を閉ざしてしまう今回の判決は、極めて問題の大きいものである。
弁護団としては、東京高裁が言い渡した不当な判決に対して、怒りを込めて、強く抗議するものである。
【判決文】