いのちと健康を守る神奈川センターは、2月17日に「労働安全衛生学校」を開催。「ハラスメント、人権と権利」をテーマに太田伊早子弁護士の講義を行いました。内容を紹介します。
統一定義がない
ILOは、初めて職場でのハラスメントを禁止する190号条約を採択し、2021年に発効しました。日本は、いまだに批准していません。労働法規上、「パワハラ」は労働施策総合推進法、「セクハラ」や「マタハラ」は男女雇用均等法、「パタハラ」は育児介護休業法と、それぞれ根拠法が異なっています。
ハラスメントの統一定義がなく、企業が行わなければならないこと、不利益の禁止や相談窓口の設置などを義務付けているだけです。ハラスメントの禁止規定もありません。被害を受けた人への救済制度もありません。加害者の法的責任も追及できません。これが日本の法体系の現状です。被害者を救済する法制度にならないのは、ハラスメントが人権問題となっていないからです。
アメリカでは、セクハラは女性差別、人権侵害問題と位置づけています。
広く被害を救済
ILO190号条約は、身体的、精神的、性的、経済的の差別を禁じ、労働者だけでなくフリーランス、ボランティア、学生も保護の対象としています。ジェンダー差別も含めて広く被害救済を定め、人権侵害と位置づけています。
日本の法水準は世界に比べると低いだけでなく、ハラスメント対策を厳しくすると職場が窮屈になるという認識が残っています。ハラスメントの禁止と救済規定の法整備は喫緊の課題です。
現状では、職場で「胸が大きいね」という発言は、本人の気持ちを基準に、業務上必要ない言動としてセクハラと認定されます。パワハラは本人の受け止めではなく、業務上必要かつ合理的範囲を超えているかが判断基準となります。
ハラスメントの認定は、外形上の行動があったか否か、合理的であるか、に加えて当事者間の力関係の差など複合的な判断となります。それぞれの判断基準が異なるため、別なもののように受け止められてしまいますが、人権侵害であることを明確にすることが必要です。
分散会で深める
講義後に、県職労連と川崎協同病院から職場ハラスメント対策、安全衛生委員会活動の実践報告がありました。
その後4つの分散会にわかれ、ハラスメントは職場にゆとりがないことに起因する、労安活動は労働組合の責務、ハラスメントが起きても気づかない(見ないふり)、労災事案は一職場だけでなく業界団体と共有する必要があるなど、職場の実態や感想を出し合いました。
ハラスメントも含めて事故の起きない職場づくり、労働者を孤立させないことの大切さを確認して閉会しました。