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2017年5月11日

「県議会問題意見書」(自由法曹団神奈川支部)を発表

hyousikouhyouni自由法曹団神奈川支部は本日、神奈川県庁記者クラブにおいて「神奈川県議会の議会運営の改善に関する意見書」を発表しました。

神奈川県議会の議会運営の改善に関する意見書

              2017年5月11日

 自由法曹団神奈川支部



意見書公表に当たって

この意見書を公表した自由法曹団は,1921年に神戸における労働争議の弾圧に対する調査団が契機となって結成された弁護士の団体です。 自由法曹団の目的は「基本的人権をまもり民主主義をつよめ、平和で独立した民主日本の実現に寄与すること」であり、「あらゆる悪法とたたかい、人民の権利が侵害される場合には、その信条・政派の如何にかかわらず、広く人民と団結して権利擁護のためにたたかう」(規約2条)ことにあります。

自由法曹団神奈川支部は,神奈川県弁護士会に所属しております約130名の弁護士で構成しております。

昨年5月,神奈川県議会において,日本共産党県議団の代表質問権を多数意見で制限する動きを知り,多くの団員が危機感を持って,県議会の傍聴に駆け付けました。そこで団員が見たものは,議会制民主主義にとって見過ごすことの出来ない様々な出来事でした。

そこで,自由法曹団神奈川支部は,神奈川県議会で起きていることについて,法律家の目で見て,問題点を指摘し,改善のための意見を提案することとして,この間,調査検討をしてきました。神奈川県議会に関する基本条例をはじめとした条例,規則,先例集等の資料等を収集し検討,県議会本会議及び委員会の傍聴,県議会議員からの聴き取り,県民の意見の聞き取り等を実施して,今般,この意見書を取り纏めるに至りました。

この意見書が,神奈川県議会の民主的改革に寄与することを祈念して公表することとします。

                   2017年5月11日

                   自由法曹団神奈川支部

                   支部長 森  卓 爾



神奈川県議会の議会運営の改善に関する意見書 ~目次~

第1 はじめに-本意見書について      ・・・・・   1

1 代表質問権制限問題          ・・・・・  1

2 目の当たりにした県議会運営の問題点   ・・・・・ 1

第2 議会改革と神奈川県議会基本条例    ・・・・・  

1 神奈川県議会基本条例          ・・・・・  5

2 神奈川県議会の現実の運用の乖離 ・・・・・  8

第3 発言撤回問題と代表質問権制限問題   ・・・・・ 10

1 発言撤回問題             ・・・・・ 10

2 代表質問権制限問題          ・・・・・ 20

第4 傍聴問題と情報提供制限問題      ・・・・・ 25

1 主権者である県民への公開原則     ・・・・・ 25

2 傍聴問題               ・・・・・ 26

3 情報提供制限問題           ・・・・・ 31

第5 議会運営委員会問題          ・・・・・ 34

1 議運の問題              ・・・・・ 34

2 議会運営委員会            ・・・・・ 36

3 議運を通じた多数会派による支配的運用の問題点・・・ 38

4 議懇の問題              ・・・・・ 40

第6 共産党議員団の委員会視察排除問題  ・・・・・ 48

1 “グループ分け”の発端       ・・・・・ 48

2 “グループ分け”その実態は差別的排除 ・・・・・ 49

3 “グループ分け”は委員会審査の公平性を損なう・・ 50

4 異なる意見の存在を認めない、多数派による「制裁措置」

・・・・・ 51

5 多様な民意を反映する議会の使命に背く暴挙・・・・ 52

第7 最後に               ・・・・・ 52

   添付資料1              ・・・・・ 53

   添付資料2              ・・・・・ 55

第1 はじめに-本意見書について

1 代表質問権制限問題

 2016年5月11日、神奈川県議会(以下「県議会」という。)の議会運営委員会(以下「議運」という。)において、自由民主党(以下「自民党」という。)県議団の提案による、日本共産党(以下「共産党」という。)県議団の代表質問権の制限が審議された。他会派の代表質問権を多数意見で制限するという異常な事態に、議運の傍聴としては例を見ない多数の県民が集まった。その様子がツイッターで発信され、瞬く間に「神奈川県議会」は、その時点でのトレンド1位となり、その数は、1日で3万件を超えた(2016年5月12日神奈川新聞)。県議会の前には、県民の代表である議員・会派の代表質問権を制限することに対し、抗議の声を上げる人々が集まった。県議会の危機的状況と感じ取った県民が次々に集まってくるという、県議会の民主化を願う私たち自由法曹団神奈川支部(以下「団支部」という。)にとって、非常に感動的な経験だった。

   そのような中で、土井りゅうすけ県議会議長(当時)から議運に対し、熟慮を求める旨の発言があり、その結果、共産党県議団の代表質問権の制限は見送られ、神奈川県議会の歴史に汚点を残すような事態は、瀬戸際で回避された。

2 目の当たりにした県議会運営の問題点

(1)ミスや不手際の繰り返しとの認識

    ただ、議運は、会派の代表質問権の制限が協議されるに至った原因は、共産党県議団が「ミスや不手際を繰り返し、会派として成熟していない」ことにあったとして、その姿勢を崩そうとはせず、5月13日本会議において、「共産党県議団の議会運営に対し猛省を求める決議」が採択されるに至った。

    また、マスコミ報道も、議運と共産党県議団の双方に問題があったかのような取り上げ方をしたものが少なくなかった。

(2)県議会運営こそが問題

    一方、このときに議運を傍聴した県民の多くは、全く違った感想を持った。

ア 異なる意見を許さず、その撤回を要求

     例えば、この5月11日、12日の議運での議論から、共産党県議団の代表質問権制限を提案するに至った、一連の「ミスや不手際」の始まりは、2015年6月に、共産党県議団が、神奈川県が推進している海外への水ビジネス事業に関し、ベトナムへの委員会海外視察を、「県民の利益にならない」と発言したことだったことが理解できた。県の大勢と意見が異なるからといって、発言内容自体を問題視したばかりか、その後の議運において、共産党県議団以外のすべての会派が、共産党県議団に、この発言を撤回するよう求めた。ところが、それでも共産党県議団が撤回せず、未だに撤回しようとしないということを、口々に問題としていたのだった(後記「第3 1発言撤回問題」)。そればかりか、この「県民の利益にならない」発言以後、神奈川県議会は、海外・国内(県外・県内)問わず、一部の例外を除いて委員会視察全般から共産党県議団を排除するという運営を現在でも続けているとの驚くべき事実を聞かされた(後記「第6 共産議員団の委員会視察排除問題」)。

イ 決まっていないことは県民に知らせてはならないとのルール

     また、5月11日の当日も、「またもや共産党議員団が不適切行為を行った」とし、共産党の加藤なを子議員が、自身のブログに、同日の議運の予定を記載したことが、この日の議運で問題とされた。

     県議会では、議運で未だ正式に決定されていない事項については、県議会議員が自身のブログで県民に知らせてはならないことになっている旨のルールが当然のように持ち出され、議運において、加藤なを子議員にブログから削除させるべきとの議論が展開されたのだった(後記「第4 3情報提供制限問題」)。

ウ 傍聴人不在の議会の公開

 さらに、何より、この5月11日の傍聴は、傍聴希望者は、午前10時に集合しなければ傍聴出来ないということで集合させられたが、いつまでも傍聴対象の議運の審議は始まらず、その日の午後を回って、深夜0時過ぎ、午前1時過ぎになって、ようやく傍聴対象の議運が開催されたのだった。その状況は、翌12日も同様だった。

県議会傍聴のために、仕事のやり繰りをして、どうにか午前10時に傍聴手続きをしたのに、傍聴対象の委員会が始まるまで15時間も待たされて、しかも深夜終電がなくなってから傍聴対象の委員会が始まるという委員会の運営に、疑問を感じない県民は、ほとんどいなかった。

傍聴は、県民に対する審議の公開であるのに、主権者である県民への配慮を全く欠いた、極めて不遜な委員会運営と言わざるを得なかった(後記「第4 2傍聴問題」)。

エ 議運懇談会による実質審理

のみならず、この5月11日、12日の傍聴人不在の委員会運営に問題を感じながら、残った傍聴希望者が待機していると、実は、神奈川県議会では、正式な議運の開催に先立って、非公式の議運懇談会(通称「議懇」)なるものが開催され、そこで相当の時間をかけてやりとりがなされているということが知らされ、そのことも、正式な議運の開催時間が遅くなっている原因のひとつであるとの情報が流れてきた。その後の団支部の調査で、この議懇が、法的な根拠を持たない非公式のものとして実際に存在し、開催され運用されていることが確認されている。

このため、そこで実質的な議論がなされてしまい、県民に対する公開の対象であり議事録に残る議運は、セレモニー化されてしまっているという問題も浮かび上がってきた(後記「第5 4議懇の問題」)。

(3)議会改革の一助に

   以上の傍聴には、団支部の団員も複数名参加した。

   したがって、このときの議運を傍聴した県民から、「それ(多数意見と異なる意見を撤回しないこと、正式決定に至る前の情報を県民に知らせること)がどうして不手際なのか」「むしろ、県議会の運営(そのような発言撤回を求めること、議員の立場で議会の情報を県民に知らせてはならないとすること)の方が問題なのではないか」との声が多くあがるのを直接耳にしたのだった。

   主権者である県民のほとんどは、このような神奈川県議会の運用の実態とその問題点について知らされることもなく、一方、県議会議員の中からも、そのような現実の運用の問題点について、声が上がって来ないというのが実情だった。

   本意見書は、このときの経験を契機に、その後調査した事項も含めて、神奈川県議会の運用の現実とその問題点について、広く県民に情報提供をすると共に、その問題に対する法律専門家としての意見を述べるものである。

   とりわけ、本意見書は、上記の通り、法的な根拠を持たない「議懇」が存在し、そのような非公式の「議懇」の中で重要な決定がなされていることを県民の前に初めて明らかにし、その問題点を問うものとなった。

   2000年4月の地方分権一括法の制定以来、全国各地で、地方議会改革が取り組まれており、神奈川県議会も、議会改革検討会議を設置するなど、この議会改革を行っている最中である。

   そこで、本意見書が、この議会改革の一助となることを願うものである。

  以下、「第2 議会改革と神奈川県議会基本条例」において、神奈川県議会の問題点を総論的に問題提起し、「第3」以下において、各論的に、「第3 発言撤回問題と代表質問権制限問題」「第4 傍聴問題と情報提供制限問題」「第5 議会運営委員会問題」「第6 共産党議員団の委員会視察排除問題」について検討する。

第2 議会改革と神奈川県議会基本条例

1 神奈川県議会基本条例

(1)議会基本条例

 神奈川県議会は、2007年3月に議会改革検討会議を設置し、議会改革に取り組んできた。そして、その議会改革の一環として、2008年12月26日、神奈川県議会基本条例を制定し、施行した。

   議会基本条例は、2006年5月18日に、栗山町議会(北海道夕張郡栗山町)で、全国初の議会基本条例が制定されたのを皮切りに、以後、多くの自治体で制定されるようになった。2015年9月18日現在、701自治体(39.2%)が制定し、30道府県(63.8%)が議会基本条例を制定している。

神奈川県議会の議会基本条例は、都道府県議会としては、三重県(2006年12月20日)、福島県(2008年7月9日)、岩手県(2008年12月12日)に次ぐ時期に成立させたもので、この点では、早くから、積極的に、議会改革に取り組んできたと評価することが出来る。

   全国で取り組まれてきた議会改革や議会基本条例には、示唆に富む内容が含まれており、神奈川県における議会改革や神奈川県議会基本条例も同様である。

(2)二元代表制としての議会の位置づけ

ア 議会は合議制の代表機関

   この間の議会改革では、二元代表制としての議会の位置づけということが強調され、その認識が急速に広がった。

   地方議会の議員と首長は、いずれも主権者である住民によって直接選挙された住民の代表であり、住民の代表として執行を行う首長と、住民の代表として意思決定を行う議会の二元代表制の機関である。

   国の執行機関である内閣は、国民が直接選挙するのではなく、国民の代表機関である国会が選出するという関係(間接選挙)にあるため、国会は国権の最高機関(憲法第41条)であり、内閣に対しては優越的地位が認められる。これに対し、地方議会と首長は、共に住民の代表機関(憲法第93条第2項)であり、そこに優越的な関係は認められないが、しかし、二元代表制によって、対等の地位にある。

   ところが、現実の、少なくない数の地方議会の運用は、首長からの提案を、ただただ、承認し追従するだけで、議会の責任において、修正したり、否決したりすることはほとんどない。単に首長の提案を追従する機関になってしまっているといわざるを得ないのが実態であり、議会として本来の役割を果たしているとは言い難い。

   首長も地方議会議員も、共に主権者である住民が直接選挙(憲法第93条第2項)によって選出した住民の代表であるが、二元代表制の下で、大切なのは、議会は首長とは異なり、多数の異なった意見を代表する議員からなる合議機関であるということである。そこにこそ、同じ代表機関でありながら、首長とは異なる独自の存在意義があり、二元代表の一方として首長と常に対等の立場で緊張関係にあることが求められるのである。

   神奈川県議会基本条例第13条も、この理を明確に規定している。

(知事等との関係)

第13条

「県議会は、二元代表制の下、知事等との立場及び権能の違いを踏まえ、 対等かつ緊張ある関係を保持しながら、第8条第1項各号に掲げる役割を果たすものとする。」

イ 議論を通じて、意思決定に至るプロセスこそが重要

    上記のように、二元代表制における議会の役割は、唯一の「議事機関」(憲法第93条第1項)として、異なる価値観の存在を前提に、その相互の議論を通じて、意思決定に至るというプロセスを持っているということである。    

したがって、最終的には多数決によって、議会の意思を決定することになるとしても、その結論ではなく、結論に至る議論の過程こそに、独自の重要性を持っている。そこでは、主権者である県民に、その過程の情報と議論を共有してもらうことが重要であり、それが、その後の選挙の投票行動と密接に結びついて、主権者である県民の意見が正しく代表される議会を実現することになるのである。

    このため、基本条例第7条は、

「県議会は、民意を代表する議員の多彩な議会活動を通じて、県民の多様な意見を集約し、県政に適切に反映させることを使命とする。」

としているのである。

    よって、意見が異なるからといって撤回を求めたり、差別的な不利益的取り扱いをすることは、二元代表制の下での、合議機関としての議会の存在意義を否定することである(第3 2発言撤回問題、第3 3代表質問権制限問題、第6 共産党議員団の委員会視察排除問題)。

(3)主権者である県民への公開原則

 したがって、また、議会における十分な審議と、主権者である県民に対するその審議の公開は、二元代表制における議会の極めて重要な役割である。

   例えば、基本条例第11条では、

「県議会は、次に掲げる事項に留意し、主権者である県民の議会活動への参加を推進するものとする。

(1) 会議等を原則として公開すること。

(2) 積極的な情報の公開及び提供に努めること。」

と明記している。

   よって、主権者である県民に対する審議の公開は、原理的なものであるのだから、傍聴者のことを配慮しない審議の公開などというのはあってはならないことである(第4 2傍聴問題)。

   同様に、主権者である県民に対し、積極的に情報を公開し、県民の多様な意見を集約して、県政に反映させることは、議員の重要な活動であるから、決まっていないことは知らせてはならないなどということにはなりえない(第4 3情報提供制限問題)。

2 神奈川県議会の現実の運用の乖離

   以上のように、神奈川県議会の議会基本条例に照らすと、神奈川県議会の現実の運用は、それとはあまりにかけ離れたものとなっていると言わざるを得ない。

   しかも、そのような現実の運用をもたらしている原因には、つぎのようないくつかの問題に共通する点を指摘できるように思われる。

(1)悪しき前例踏襲主義

 まず、議会運営のほとんどが前例踏襲主義で行われており、それで思考停止してしまっているのではないかという問題である。

   もちろん、議会運営の継続性、安定性の観点からは、前例踏襲は基本的には重要なことである。

   (神奈川県議会先例1)

「あらたに議会が構成された場合でも、先例は、原則としてそのまま踏襲

する。」

   しかし、地方分権時代の厳しい状況の下、これまでの地方議会の運営では不十分ということで、議会改革が取り組まれているのである。したがって、踏襲すべき前例と改革すべき運用を見極めていくことが求められているのであるから、前例であるということで思考停止してしまっては、議会改革など進むはずはない。

   しかも、改革の大きな方向性は、自ら定めた議会基本条例によって、既に明文化されているのであるから、改革すべき運用を見極めることはそれほど困難なことではないはずである。

   あるべき姿に照らして、現在の運用の問題点を、潔く改めていくことが重要である。

(2)二元代表制の理解の歪み 

    また、あるべき姿との関係では、いくつかの制度に対する理解が歪んでいて、あるべき姿を見誤っているという問題がある。ここでは、その代表的な例として二元代表制の理解が歪んでいて、あるべき姿を見誤っていることを指摘し、他の問題は、各論において適宜指摘する。

    すなわち、単なる誤解なのか、あるいは、これまでの悪しき前例の踏襲を合理化するための理論のための理論なのか、議運の少なくない委員が、二元代表制の名の下に、首長に対抗する強力な「機関としての議会」であるためとして、本来、議会にとって最も重要なはずの議論の過程や県民の多様な意思の反映の機能を欠落させてでも、議員間の結束と統一だけを強調するような考え方をしているように伺われる(発言撤回問題(第3 1発言撤回問題)、加藤議員のブログ問題(第4 2情報提供制限問題)等)。

    しかし,上記のとおり、二元代表制における議会の役割は、唯一の「議事機関」(憲法第93条第1項)として、異なる価値観の存在を前提に、その相互の議論を通じて、意思決定に至るというプロセスを持っているということである。議会で多様な意見を闘わせることが,議会として首長に対抗する力を弱めるかのような議論は,二元代表制とは無縁なものと言わざるを得ない。    

(3)糺す契機が欠如

さらに、悪しき前例踏襲であると、二元代表制の歪んだ理解であると、そのような中で活動し、慣れてしまえばしまうほど、それが問題であることを認識するのは困難であり、おそらくは、それらの問題点について、ほとんど自覚も持つことが出来ないまま、それまでの議会運営の経験を疑うこともなく踏襲しているといわざるを得ないのが現実である。

 したがって、むしろ、問題点は、第三者的な立場からこそ指摘しやすいことは否めない。

   ところが、問題なのは、県民のほとんどは、上記のような神奈川県議会の運用の実態について知らされていないということである。もちろん、傍聴が認められている等、公開の制度は認められており、知る術がないということではない。しかし、公開が認められているということと、県民が県議会の運用の実態や問題点を認識しているということとの間には、あまりにも大きな隔たりがある。

それを専門的な立場で知らせるはずのマスコミ報道自体が、上記のとおり、その問題性を自覚することが出来ているのか疑わしい報道に終始しているため、批判的立場からの情報が県民に入ってこない。そのために、県民の代表機関である県議会に、見過ごすことの出来ない問題点が存在するのに、県民が主権者としてその改善を求めることも出来ないでいる。

このことも、現在の県議会の運用上の問題をもたらしている共通の原因の一つであるといえ、あるべき県議会に向けた改革を実現していくための重要なポイントと言わざるを得ない。

(4)原因を克服して議会改革を

 今回の会派の代表質問権制限問題を契機として、少なくない県民が県議会の運用の実態に触れ、その問題点を感じるに至った。

 県議会の常識が、必ずしも世間の常識とはなっていないことを直視し、議会改革のために、変えるべき前例は潔く改革して、議会基本条例に定めたあるべき県議会を実現すべく、一層の議会改革が行われるべきである。

 以下、各論的に検討する。

第3 発言撤回問題と代表質問権制限問題

1 発言撤回問題

(1)珍しくない議員の発言に対する撤回要求

ア 「水ビジネスは県民の利益にならない」発言撤回問題

 2015年7月8日の県民企業常任委員会において,共産党の加藤なを子議員が,水ビジネスのためのベトナム視察について反対意見を述べたところ,2日後に開催された議会運営委員会は,加藤議員に対して,当該発言を「撤回」するよう迫った。

   加藤議員の発言は以下の通りである。

   「常任委員会県外調査について、日本共産党県議団の意見を申し上げます。

  神奈川県議会海外調査実施委員会選定指針に位置付けられている、選定に当たり審査する事項の2項には、計画の内容が県民福祉の向上に資する重要な課題でありと位置付けられています。今回の水ビジネスの可能性や海外展開の調査、民間企業の支援策の模索は、県民福祉の向上につながるとは言えません。また、特に海外視察は、調査目的、場所の決め方について、委員会で委員の議論が十分に行われませんでした。

  公費を使う海外視察については、視察の目的について緊急性、必要性、重要性が求められます。県民に支持されるふさわしい内容であり、視察であるべきです。議員は県民の暮らし向きの厳しさに目を向け、痛みに共感し、県民を応援する県政に向けて取り組むべきです。今回の視察内容や視察先は県民の理解が得られないものであり、賛成できません。」

   加藤議員のこの発言に対し,自民党の竹内英明議員は,

   「今、とても理解ができない発言だったのですが、この委員会に付託された水事業についてはもう、基本的に県民の福祉の向上に当然帰結するものだと僕らは信じて、ここで議論してきました。そこが福祉の向上に寄与しないというような発言は、それはおかしいと思います。

  少なくとも、他の委員会も含めて、僕らが議論していることは、全て県民の福祉に寄与するものというふうに受け止めて議論しているということ、これはこの委員会の場でも、共産党もそういった議論をしてきたわけで、全くそのことに触れていないわけではないし、これについては、やっぱり疑義があるなと思います。そこのところで反対をされて、海外視察はだめだということになると、黙っていられない。…(以降略)」との発言を行った。

   そして,この加藤議員の委員会発言から2日後(日付は3日後)である7月11日午前2時25分という深夜に開催された議会運営委員会において,自民党の竹内議員は,加藤議員の発言を撤回するようにと発言した。

「加藤(な)議員 そうしますと、この私どもの発言を撤回しろというふうにおっしゃるのでしょうか。

竹内委員(自民党) その通りです。」

この竹内議員の発言に,他会派も同調した。

 例えば,県政会の相原高広議員は「共産党の発言内容の,県民の福祉の向上に資さない,つながらないという言い方の中に,見解の相違を超えて,他の意見の立場を侮辱したり,傷つけるという意味を感じていると,そういう意味合いですよ。何で真面目に,他の会派が色々と意見を述べ,政策論を展開しているものに対して,県民の福祉向上につながらないと,一言でばっさり切るなんてことが,とても許されないと,侮辱を受けたと,そういう風に感じているんですよ。・・・(中略)それは共産党としてしっかり受け止めてもらわないと,議論というより喧嘩になりますよ。(後略)」

   県議会は,当然のことながら,多数の議員が,各議員を選出した県民の負託を背負い,その県民の意見を代表して多様な議論を交わす場所である。

海外水ビジネスは、2007年の36.2兆円から2025年には86.5兆円に成長すると見込まれている巨大ビジネスであり、三菱商事や日立製作所をはじめとする巨大企業が、運営ノウハウを有する地方自治体と組んで市場参入を図っている一大事業である。多数意見は、将来の県財政の安定収入のためにチャレンジすべきということであろう。しかし、他方で、神奈川県内の県民のくらしが厳しさを増しているときに、その対策のために、県民の税金と、人財と、時間を使うのでは無く、県民への行政サービス提供とは直接関係の無い、海外における事業での経済的利益獲得のために、これらを振り向けることについては、「県民の福祉向上につながらない」とする意見が出てきたとしても、不合理とはいえない。

   ところが,神奈川県議会においては,異なる意見に対する寛容さが不足しているといわざるをえず、他会派や先輩議員が決めたことに対して異論を唱えることが、あたかも不健全なことのように受け止められているようである。

イ 「教育委員会はいわば被害者」(警察を加害者)発言撤回問題

  神奈川県警青葉警察署が,2016年7月の衆議院選挙において,青葉区内の18歳の投票率が高かったことについて,青葉区内の県立高校3校に対して,何か取り組んだのかと電話で事情を聴取した問題について,共産党の君嶋ちか子議員が同年9月16日の一般質問でこれを取り上げ,投票率が高いのは,喜ばしいことであって,警察から問い合わせを受けるようなものではない,にも関わらず,警察が根拠条文もなく,「任意の聞き取り」という行動をすることは,負の影響があるから警察は謙虚な対応が必要であるから今後このような行動を行わないよう強く求める,また教育長もいわば被害者であり,実際に学校では不安や戸惑いが生じているから,(この件は)日常の防犯の連携と違うことを踏まえて行動してほしい,と述べた。

   すると,翌週9月16日の本会議後の議運で,上記君嶋議員の発言は削除すべき,との意見が上がり,翌週9月26日の議運では,自民党の佐藤光議員が

「教育長を被害者にするという発言が、本会議でなじむかといわれればなじまないのです。そこを、議会運営委員会の正副委員長があまり大きなことにすることもなく、削除して終わらせようとしていたのに、それにも全く応じず、・・・(中略)・・加害者が誰かと言ったら、警察といったのです。そこも訂正しないでいいのですか。加害者が警察と言ったことも訂正しないでいいのですか。」

「一所懸命県民の生命と財産を守るために日夜活躍している警察がいるわけです。その警察をつかまえて加害者にする。しかも、教育長を被害者にでっち上げて警察を加害者にするとは、よく皆さん聞いておいてください。警察庁が出している治安の回顧と展望という、去年冊子にされたばかりですが、ここに載っているのが、右翼、極左暴力集団、オウム真理教、日本共産党です。」

などと発言して,共産党に対して,君嶋議員の一般質問の発言の撤回を迫った。

   警察という,権力を特に謙抑的に使用しなければならないはずの公権力が,法律の裏付けなく,「聞きたかったから」などと言う安易な理由で、県立高校の担当者に対して「どうして投票率が高かったのか」などという「聞き取り調査」などを行うべきでないことは明らかである。この青葉署の態度こそ、本来、問題とされるべきである。

   ところが、神奈川県議会ではそのような指摘をする会派は少数であるというだけにとどまらず、その少数の発言そのものを議運で問題とし、撤回を求め、議事録から削除することが、多数意見の各会派から迫られているのである。

ウ 発言撤回要求

   以上は、一例であるが、神奈川県議会では,正副委員長までもが,議員が正当に議会で行った発言を「削除して終わらせようと取り計らった」り,議会運営委員会で,他会派の議員が「取り消せ」と発言することが少なくないという状況である。

(2)発言撤回要求の問題性

ア 今日の少数意見は明日の多数意見となる可能性

   民主主義では、主権者である国民が自由に意見を表明し討論することによって政策決定を行っていくことが本質である。この民主政治にとって不可欠な、自由な意見発表と討論を保障するものとして、表現の自由は極めて重要な意義をもつ。ここではとりわけ「政治的な」言論が、表現の自由の保障の中核をなすものとして位置づけられる(浦部法穂「憲法学教室」全訂第2版第4刷147頁参照)。

   主権者の代表である議員の議会における発言権の保障は、議会制民主主義の基本中の基本である。議員の発言の自由は最大限の保障が必要である。

「民主主義が生きていると言い得るためには、異なつた選択への可能性が常に留保されていなければならない。今日の少数意見は明日の多数意見となる可能性を秘めるものであり、異った選択の可能性を保障するものである。民主主義のもとで少数意見が尊重されなければならない根本理由はここに在る。少数意見の尊重されない民主主義は真の民主主義ではない。」(昭和53年05月24日 在宅投票制度廃止違憲訴訟 札幌高等裁判所判決)のである。

   したがって、多数の会派が、自らと異なる意見を述べた少数会派に対して、発言の撤回を迫ることなど、言論の府であるべき議会において、あってはならない行為である。

   そのような行為は、県民に対して選択肢を覆い隠す行為であるし、そのようなことが繰り返される場合には、少数意見を述べること自体を躊躇させ、萎縮させる虞さえある。それは、言論の府であるべき議会の自殺行為といわざるを得ない。 

   もちろん、発言者は、自己の表現に責任を持つことが要求される。発言の内容によっては、自己の政治的道徳的責任を問われることもある。地方自治法第132条は、「品位の保持」として、「普通公共団体の議会の会議又は委員会においては、議員は、無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。」と定めている。したがって、この趣旨に反する行き過ぎた発言は、議員の懲戒の対象となる。

   しかし、たとえば「無礼の言葉」を、自分の価値観や政策的見解と対立する発言と解釈して撤回を迫るなどというのは論外である。

   議員が議会において行う発言は,懲戒に相当するような違法なものを除けば、有権者に対してのみその責任を負うのであり,その他に何の責任も負うことはない。これが議会制民主主義の根幹である。

   とすれば,仮に,議会において行われた議員の発言に問題があるのであれば,それは有権者が選挙においてそれを評価するものであって,他の議員や議会がこの発言を撤回させることなど許されることではない。

イ 二元代表制における「議事機関」としての存在意義を否定

   さらに、前述のとおり、二元代表制における議会の役割は、唯一の「議事機関」(憲法第93条第1項)として、異なる価値観の存在を前提に、その相互の議論を通じて、意思決定に至るというプロセスを持っているということである。そこでは、主権者である県民に、県政の政策決定に至る過程の情報と議論を共有してもらうことが重要であり、それが、その後の選挙の投票行動と密接に結びついて、主権者である県民の意見が正しく代表される議会を実現することになるのである。

   このため、基本条例第7条は、

「県議会は、民意を代表する議員の多彩な議会活動を通じて、県民の多様な意見を集約し、県政に適切に反映させることを使命とする。」

としているのである。

  よって、意見が異なるからといって撤回を求めることは、二元代表制の下での合議機関としての議会の存在意義を否定することである。

(3)議員の発言の自由の保障は議会の基本中の基本

  では、議会制民主主義の本質からも、神奈川県議会基本条例の規定からも、明らかに許されるべきでないこの少数会派の発言撤回という事態が、なぜ、現在の神奈川県議会では、しばしば行われているのだろうか。

ア 二元代表制の理解の歪み

    地方議会改革の中で、二元代表制の一翼としての議会という考え方が強調されてきたことは、前述(5頁)のとおりであるが、議員の中には、この二元代表制の名の下に、首長に対抗するための強力な「機関としての議会」であるためであるとして、本来、議会にとって最も重要なはずの議論の過程や県民の多様な意思の反映の機能を欠落させてでも、議員間の結束と統一だけを強調するというような、歪んだ二元代表制の考え方をしているものが、この発言撤回問題をはじめ、後述の情報提供問題に端的に表れており、今回の意見書で取り上げた問題のほとんどに関係しているようである。

    しかし、それは、結局、首長に対抗するための強力な機関のためということで、多数意見に異論を唱えることを封じ、議会の出す意思決定について、批判的なことは控えるようにすることを求めることになる。「機関としての議会」の充実は、あくまで、「議事機関」(憲法93条1項)としての議会の充実でなければならないことを忘れた考え方であり、このような理解は、直ちに改めるべきものと言わざるを得ない。

イ 円滑な議会活動の理解の歪み

  また、神奈川県議会基本条例第5条は、会派は、「議会活動を円滑に実施するため」に結成されるものであるとし、そして、同条第2項は、会派を、各議員の政策実現のための活動主体として位置づけている。

(議員と会派)

第5条

議員は、議会活動を円滑に実施するために、会派を結成することができる。

2 会派は、県議会内の自律的な団体として、議会活動の一翼を担い、議員の活動を支援し、及び会派の会議を主催するほか、調査研究、政策立案、予算要望、広報活動等の実施主体となることができる。

ところが、神奈川県議会の議員の発言の中には、多数意見に異論を述べることが、あたかも議会活動の円滑な運営を妨げることと歪んで理解し、会派結成の目的に合致していないかのような発言が見られる。

例えば、自民党の長田進治議員は、平成27年11月24日の議運において

「共産党が、海外視察について検討をするとか協議をするとか、やめさせるとか言われていますけど、105人いる県議会の中で6名の会派で、一体何を協議するのか、自分たちの中で協議するのか。」

「よしんば協議事項に賛成する場合においても、公式な場で反対であるかのような発言を、あたかも議事録に残すために発言しているのではないかと思わされる場面もあり、自己主張することばかりに執着する姿勢が見られる。

105名を有する神奈川県議会において、多様な会派が存在するが、その中で6名のたった一会派が、自己主張を曲げずに我を通そうとする状況を放置すれば、やがては歩み寄りの姿勢で臨んでいる他派の間にも不協和音が生じ、円滑な議会運営に支障が生じてしまうのではないかということを我々は最も懸念するものである。」と発言している。

しかし、議会は多様な意見を反映する代表機関であり、だからこそ、同じ政策実現を目的とする議員同士が政策実現のために会派を結成して活動することが予定されている(第5条第2項)。多数の議員が、個々でそれぞれに活動するのではなく、一定の政策で「会派」にまとまって活動することによって、「議会活動を円滑に実施する」(第5条第1項)ことが出来るという関係である。

多数会派の意見に異論を述べることを、議会活動の円滑な運営に反するとするような理解は、合議機関としての議会の否定に他ならない。直ちに、改めるべきである。

ウ 議運の全会一致方式の理解の歪み

さらに、議運の決定は原則として全会一致とされている。すなわち、神奈川県議会先例188は、

「議案、陳情等の審査を除く議会運営委員会における議会運営に係る事項の決定は、原則として全員了解の方法で行う。」

とされている。

とすると、議会運営に係る事項について多数会派の意見と異なる意見が出た場合、理論上は、意見の違いということで済ますのでは無く、異なる意見についての発言の撤回を迫ることが、議運の全会一致方式にかなうことになる。このことも、上記のような事態を招いている一因になっているように見受けられる。

しかし、議運が原則として全会一致を旨としているのは、「議案、陳情等の審査」のような実質的な中味の問題ではなく、質問の順序とか質問の時間配分等、議会を円滑に運営するための形式的外形的な共通のルール作りについては、相互に立場の交換可能性が存する問題であり、合理的な協議を尽くせば自ずから全会一致の結論が得られることが期待出来るからである。

ところが、神奈川県議会の議運では、上記のとおり、常任委員会における県議会議員の海外水ビジネスは「県民の福祉に適わない」旨の発言や、警察を加害者と評価する旨の発言について、発言内容の是非を議運で問題としているのである。そのようなことを議運で問題とすること自体に、疑問がないわけではないが、少なくとも、そのように明らかに意見が対立している発言内容の是非の評価については、最初から全会一致原則が適用されるはずはない。

それを、最後は多数決になってもやむをえないが出来るだけ全会一致を目指して努力すべきとし、異なった少数意見に対して、発言の撤回を迫ったり、議事録からの削除に同意するよう迫ったりすることは、明らかに上記先例188を歪めて理解するものと言わざるを得ない。

それは議運における多数意見による少数意見の封殺に他ならず、民主主義の否定である。

エ 主権者である県民に事態が知らされない

    さらに、発言の撤回を迫られた事実自体が自身の不名誉と感じるためか、あるいは、当然のことのように行われてきた県議会の運用に呑まれてしまっているためか、いずれにしても、発言の撤回を迫られた事実を、県民に対して自ら告発し、問題提起をする県議会議員も多いとは言えない。上記共産党議員に対する発言撤回の動きについては、同党の機関紙である「しんぶん赤旗」が報じたが、県民の多くが認識するには至らなかった。

    しかし、主権者の代表である議員の発言の尊重は、主権者である県民自身の問題であるし、民主主義の問題である。

    したがって、そのような問題が発生した場合には、何より、主権者である県民に対して告発し、情報が公開されるべきである。

    その場合、県民の日常的な監視には限界があり、SNS等を通じた情報伝達も、情報の収集があってのことであるから、やはり、県民の知る権利の代表者であるはずのマスコミの役割は極めて重要であることを指摘せざるを得ない。

2 代表質問権制限問題

(1)代表質問権制限の動き

ア 日本共産党の代表質問権制限を議運の協議事項に

   平成28年4月11日、神奈川県議会議会運営委員会は、

   (県議会先例101)

「質問は、代表質問と一般質問に区分し、代表質問は原則として、各交渉団体1人とする」

という先例の規定に例外規定を設け、交渉会派である日本共産党県議団に代表質問を行わせないことを決定するための協議を行うことを決めた。

   4月11日に、この代表質問権の制限が議題となった契機は、同年3月24日の本会議の討論において、共産党の藤井議員が反対討論をするにおいて、賛成すべき請願番号を反対討論に入れてしまい、それを討論終結前に訂正したという出来事だった。

   討論終結前に訂正をなしたため、当日の採択には全く影響を与えなかったので、このこと自体は、本来問題とされるようなものではない。ところが、議運では、この出来事を契機として、共産党の代表質問権を剥奪すべし、ということが提起され協議事項とされたのである。

   そして、本意見書の「はじめに」に記載したとおり、当時、県庁前ではSNSなどによって自発的に集まった県民が「レッドパージ反対」などのプラカードを掲げるなどして、少なくない県民が議会運営委員会の行おうとしていた日本共産党議員団の代表質問の制限に声を上げていた。そのような中で、議運において次のような議論が行われた。

イ 議会運営委員会の議論

自民党の小島健一議員は

  「(加藤なを子議員のブログをあげて)決して我々が、共産党さんをいじめているとか、昨今ではレッドパージという批判もあちこちから聞こえてくるようでございますが、そんなつもりでこういうことをやろうとしているわけではなくて、あくまで伝統ある神奈川県議会にふさわしい交渉会派であるかどうか、代表質問をやる資格があるかどうかという、その前提にのっとって、あくまで未熟さゆえに我々はやむを得ずこういう対応をとろうとしているわけであります。」

「先例101の例外的な取り扱いを行うべく、これは採決をすべきだというのが我々の考え方であります。」

と述べ、また、かながわ民進党の青山圭一議員も

 「私どもといたしましても、これはしかるべき責任をとってもらうということの中で、今回先例101にのっとった措置をとることもやむをえないのではないかという結論に至ったわけであります。私どもといたしましても、自民党のほうから提案がありましたとおりの対応をすべきではないかと思っているところでございます。」と述べ、共産党を除く全ての会派が「先例101にのっとった措置」として「代表質問権の制限を行うべし」との発言を次々に行った。

(2) 会派の代表質問権制限の問題性

ア 会派の代表質問権

 ところで、「会派」とは議会で政治上の政策・主義・目的などを共有する議員が集まった団体のことである。議会で認められた「議員の団体」は、この「会派」であって、「政党」ではない。

   もっとも、地方議会の場合、どの地方議会でも「会派」制度がとられているわけではない。そのような中で、神奈川県議会も含めて、多くの地方議会で「会派」制度を必要として採用している理由については、次のような発言から推測できる。

「かつて私は会派の必要性を訴えてきた。最大の理由は二元代表制下における首長と議会のチェック&バランスを維持するためには、首長の機関に対しても議会も機関として対峙することが肝要と思っていた。当然今でもその考え方は変わらない。

経験豊富な首長機関に、ほとんど行政経験の少ない(無いにも等しい)議員が、一議員として十分な対峙ができるはずがない。そのために機関としての議会・議員活動こそが有効な手段であると思っている。そのためには、政策を一とする者同士の集合体として会派制度の導入の必要性を訴えてきた。」(愛知県名古屋市豊山町議会 村上一正氏の発言)

   神奈川県議会基本条例第5条は、会派について、次のような規定をおいている。

(議員と会派)

第5条

議員は、議会活動を円滑に実施するために、会派を結成することができる。

2 会派は、県議会内の自律的な団体として、議会活動の一翼を担い、議員の活動を支援し、及び会派の会議を主催するほか、調査研究、政策立案、予算要望、広報活動等の実施主体となることができる。

3 県議会は、必要と認めるときは、会派間の協議の場を設けることができる。

   したがって、神奈川県議会は、会派制度を導入し、議会運営の重要な構成要素として位置づけている。

また、「神奈川県議会先例」により、「会派」を構成する議員一定数以上(現在は4人以上)を「交渉団体」と位置づけ(県議会先例217)、代表質問権(県議会先例101)や議会運営委員会に参画する権利(県議会先例182)を有することとしている。

その結果、4人未満の会派は非交渉会派として、代表質問を行うことも、議会運営委員会に委員を送ることもできず、一般質問の機会も少ない(一人議員は4年間で1回しか本会議での質問=一般質問ができない)という、議会運営のあり方として検討すべき問題があることは忘れてはならないものの、いずれにしても、「交渉団体」である「会派」にとって、代表質問を毎議会でおこなうことは、「会派」としての政策実現や主権者である県民の代表者としての各議員の政策実現にとって、極めて重要なものである。

よって、特定会派の、そのような代表質問権を制限することは、特定会派に対する言論弾圧に等しく、議会制民主主義の根幹に関わる極めて重大な問題と言わざるを得ない。

   平成28年6月19日の神奈川新聞では、江藤俊昭山梨学院大学法学部教授は、代表質問権の制限について、「県民の多様な意見を県政に反映させる」と定めた神奈川県議会基本条例第3条の趣旨にも反し、「議会で最も根源的な原則を逸脱してはならない。」「絶対にやってはならないこと」と指摘しているところである。

イ 会派の代表質問権は誰のためのものなのか

   では、それにもかかわらず、どうして、神奈川県議会では、この代表質問権を制限しようとする暴挙が起こってしまったのだろうか。

発言撤回問題で指摘した、悪しき前例踏襲主義や、二元制の理解の歪み、さらには、議運の全会一致方式の理解の歪み、県民に事態が知らされない問題等、いずれも無関係とは考えないが、ここでは、特に、議運が、議会主義や議会制民主主義の理解に対して歪んだ理解をしていることの問題が重要と考える。

すなわち、議運に共産党県議団の代表質問権の制限を提案した、自民党県議団の理屈は、共産党県議団が「ミスや不手際」を繰り返し、反省が足りないので、そのペナルティとして、共産党県議団の代表質問権を制限するように議運で決定しようというものである。自民党の指摘するこの「ミスや不手際」については、むしろ、神奈川県議会のルールの方にこそ看過出来ない問題があることは、本意見書において明らかにしたひとつの柱であるが、ここでの問題は、仮に、そのようなルールに従わず、議運を混乱させたとか、時間を浪費したとかの問題があったとしても、そのペナルティ(報復)として、自民党や議運が、会派の代表質問権を制限するという選択肢を持ち出して憚らなかったということの問題である。

そこには、議会は誰のものなのか、すなわち、主権者である県民のものであって、決して県議会議員のためのものではいという、根本的な理解が歪んでしまっていないかという問題がある。

県議会における議員の質問権や、会派の代表質問権は、あくまで、主権者である県民から付託された権利なのであり、県議会議員同士で、時間を浪費させられたとか、混乱させられて不快な思いをしたことの、ペナルティや報復の手段として、県議会議員の一存で取引出来るような性質のものではない。ましてや、ベテラン議員が新参者の議員に対して、その「ムラのルール」に精通しておらず未成熟である等として、議員同士のやり取りの中で取り上げることの出来るようなものではありえない。

議会のルールや議運の運営は、主権者である県民のためのものでなければならないのであり、県議会議員の多数をもってすれば、どのようなルールでも構わないということには決してならない。

上記江藤俊昭教授は、上記紙面において、議運が、「県民から選ばれた代表として持つ質問の権利と、共産党のミスや不手際によって議会運営が混乱した問題(という次元の全く異なった問題)を同列に扱ったこと」が問題であることを指摘しているが、同趣旨の指摘と解される。

   代表質問権は、県民から付託された権限であり、特定会派の代表質問権を、多数をもって制限することは、特定の意見、考え方に制限をかける行為であり、思想弾圧、言論弾圧といわれてもやむをえない行為である。

   議運が主張するように、共産党県議団の「ミスや不手際」に対してペナルティが科されるべきかという問題は置いておくとしても、特定会派の代表質問権の制限を、そのペナルティの選択肢とすることは、「議会で最も根源的な原則を逸脱してはならない。」「絶対にやってはならないこと」である。

今後、二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、議員の質問権や代表質問権の重要性を改めて自覚すると共に、議会は誰のものなのかという、基礎的な理解を再確認することが必要というべきである。

第4 傍聴問題と情報提供制限問題

1 主権者である県民への公開原則

   議会における十分な審議と、主権者である県民に対するその審議の公開は、二元代表制における議会の極めて重要な役割である。

神奈川県議会基本条例第11条は、

「県議会は、次に掲げる事項に留意し、主権者である県民の議会活動への参加を推進するものとする。

(1) 会議等を原則として公開すること。

(2) 積極的な情報の公開及び提供に努めること。」

 と規定している。

   そして、「会議等」とは、「県議会の会議、委員会及び議案の審査又は県議会の運営に関し協議又は調整を行うための場」(基本条例第4条第1項)のことである。

   よって、主権者である県民に対する審議の公開は、原理的なものであるのだから、傍聴者のことを配慮しない審議の公開などというのはあってはならないことである。ところが、神奈川県議会の傍聴者への態度はあまりにも酷い。

  また、同様に、主権者である県民に対し、積極的に情報を公開し、県民の多様な意見を集約して、県政に反映させることは、議員の重要な活動であるから、決まっていないことは知らせてはならないなどということにはなりえない。ところが、神奈川県議会では、正式に決まったこと以外は、県民に発信してはならないとの取り決めがあるとのことである。あまりにも、問題であるといわざるを得ない。

2 傍聴問題

(1)議会、委員会の傍聴についての定め

 神奈川県議会委員会条例第17条は、

(傍聴の取扱)

「議員は、随時委員会を傍聴することができる。その他の傍聴人については、委員会にはかり、これを決める。ただし、委員会の議決により秘密会とすることができる。

2 秩序保持のため必要があると認めるときは、委員長は、傍聴人の退場を命ずることができる。」と規定している。

   よって、議員以外の傍聴人は、その都度、委員会にはかって委員会で決することになる。そのために、傍聴希望者は、委員会が傍聴を許すかどうかの判断をするために必要ということで、住所、氏名、年齢、連絡先電話番号を予め提供させられる扱いになっている。

   しかし、一方で、上記のとおり、神奈川県議会基本条例第11条は、

「県議会は、次に掲げる事項に留意し、主権者である県民の議会活動への参加を推進するものとする。

(1) 会議等を原則として公開すること。」

  と規定している。

しかも、ここで、「会議等」とは、

「県議会の会議、委員会及び議案の審査又は県議会の運営に関し協議又は調整を行うための場」(基本条例第4条第1項)のことである。

  したがって、神奈川県議会基本条例が制定された2008年12月以降は、上記の神奈川県議会委員会条例第17条の傍聴の許可制は、これに反する規定として改正されるべきである。

 また、少なくとも、委員会の傍聴人についても、「原則として公開」の立場で、運用されなければならず、神奈川県議会委員会条例第17条の「委員会にはかり、これを決める。」部分は効力を失ったものとして運用されなければならない。

 そして、何より、主権者である県民に対する審議の公開は、原理的なものであるのだから、傍聴者のことを配慮しない審議の公開などというのはあってはならないことである。

 ところが、2016年5月11日の議会運営委員会の傍聴を希望した傍聴人が実際に体験した傍聴は、次のようなものだった。

(2)2016年5月11、12日の議運傍聴体験

「5月11日午前10時までに集合。傍聴対象の議会運営委員会は、10時20分からの予定と説明があり、傍聴当選者は、別室へ移動させられる。

ところが、11時24分~11時58分まで、正副委員長等の事案について議運が開催され、その中で、共産党の加藤議員のブログ問題をめぐる議論が行われた後、いったん休会ということで、傍聴はいったん休憩になり、その後の議運は開始時間が判らないので、そのまま待機していてもよいし、携帯電話の番号を残してもらえれば、始まりそうなときに知らせるので、短時間に戻れるところであれば、どこにいても良いとの説明を受ける。

  この説明を受け、神奈川県議会の議運傍聴者控え室に残りながら、食事に行ったり等、出入りを繰り返した人が多かったが、さすがに、17時を回っても、全く再開する様子がなかったことから、ほとんどの人は、控え室から退場した。

その後、議会局から電話が入ったのは、22時であり、そろそろ、議運が始まりそうな気配なので、傍聴を希望するのであれば、集まってほしいとの連絡だった。そこで、県議会議運の傍聴人控え室に向かい、22時15分には到着したが、実際には、それでもなかなか始まらなかった。

  ただ、開始が遅れたこともあって、一度自宅に戻り家事を済ませた『ママの会』の若い母親たちが、23時を過ぎた頃から、タクシーを飛ばして、続々と集まってきた。そして、日にちをまたいで委員会を続けるために必要と説明を受けた『続会の手続き』をするための議運が、23時30分から23時40分に行われ、その後、さらに、傍聴希望者は待機をするように伝えられた。

そして、24時30分ころに、『終電がなくなるが大丈夫か』を議会事務局から確認され、自己責任で結構ということで残った傍聴希望者が待っていた、日本共産党の代表質問権を制限することについての協議が、ようやく始まったのは、25時(12日午前1時)のことだった。

  この議運が始まる直前まで、神奈川県議会で、日本共産党の代表質問権を制限する決議がなされようとしていることに危機を感じた県民が、ツイッターで様々にその状況を説明したり、意見を表明したりし、『神奈川県議会』は、このときのトレンド第1位になるなど、神奈川県議会の議運の様子に、注目が集まる状況となった。

  そして、議運の議員が、『現代のレッドパージだとか言われているようだが』とか、『別に共産党をいじめているわけではない』とか、言い訳をしながら、様々に意見を述べた上で、最後に、日本共産党を除く全ての委員が、代表質問権の制限はやむを得ない旨の意見表明をした。また、共産党議員団の井坂委員からは、他会派の代表質問権を多数決で制限することは、議会として許されてはならないことである旨の意見が表明された。

  この各委員の意見が述べられた後に、土井りゅうすけ議長から、慎重に検討をすべき旨の意見が述べられた。これを受けて、議運委員長が各委員に再度意見を確認したところ、今度は、各委員から、『議長の発言は重く受け止めなければならない』旨の意見が相次ぎ、代表質問権の制限にこだわらず、様々な措置を、もう一日かけて探ってみるということになった。結局、この時点で、日本共産党の代表質問権を制限することは、事実上、見送られた。

  そして、すでに12日未明となっていたが、12日の午後から、再度、日本共産党の一連の「ミスや不手際」に対し、神奈川県議会としてどうするかを審議することが確認されて、休会が宣言された。それは、26時(午前2時)のことだった。

  その後、議会局から、5月12日午後も傍聴を希望する者は、12時30分までに集合するようにとの連絡があった。

  一旦帰宅し、睡眠を取ってから、傍聴希望者は、時間通りに、12時30分に集合した。しかし、前日と同様、またしても、議運は始まろうとしなかった。そして、14時から14時15分まで、短時間、本会議での質問時間を確認する協議がなされた後、前日と同様、しばらくかかりそうなので、始まりそうになったら携帯電話に連絡する旨の事務連絡が行われた。

  そして、その後、携帯電話に連絡があったのは、またしても、21時30分のことであった。

  その後、22時15分から22時30分まで、各会派から謝罪文の提出を求めるべきとか、猛省を促す決議をすべき等の意見がなされ、共産党からは、いずれも理由がないから決議をすべきでない旨の意見が表明された。そして、休会の後、23時15分から23時20分の5分間、猛省を促す決議案を本会議にかけるということについて意見集約が行われ、23時30分から再開した議運において、決議案が確認され、23時40分に散会となった。

  この日は、午前0時を超えなかったものの、傍聴人の都合というものに全く配慮をしない、極めて不遜な議運の運営と言わざるを得ない。」

(3)議会のとらえ方の本質にかかわる大問題

 上記のとおり、神奈川県議会基本条例第11条は、「主権者である県民の議会活動への参加」として「議会等を原則として公開すること」を定めている。「主権者である県民」に対する審議の公開は、原理的なものであるとの位置づけである。

  ところが、神奈川県議会の実情は、この2016年5月11、12日の議運傍聴体験からも明らかなように、あまりにもかけ離れている。傍聴希望者に時間厳守で集合させておきながら、15時間も待機させ、しかも、深夜、終電がなくなり、電車で帰宅することを諦めない限り傍聴出来ない等ということが、主権者である県民に対する傍聴の名に値するものでないことは、論を待たない。

  それでも、この5月11日のみならず、12日も、当然のことのように、同様のことが繰り返されており、議会運営委員会は、会派の調整であり、時間がどうなるかは読めないのだから、それでも傍聴したいという人には傍聴を拒むものではないが、傍聴人に配慮して議運を運営することなど不可能だと言わんばかりである。

  しかしながら、神奈川県議会基本条例を制定したにもかかわらず、制定後7年以上が経過しても、このような傍聴の運営について疑問も持つことなく、未だに変わらないというのは、議会は誰のものなのかという根本的な位置づけに関する理解が不十分であるからと言わざるを得ない。

  県議会は主権者である県民のものであり、県議会議員のものではない。

  本来なら県民が全員で協議し、県政を運営していくことが住民自治の建前であるところ、県民が一同に会して協議し、結論を出すのは不可能であることから、県民が選挙によって選んだ代表者を通じて、協議をし、結論を出すという制度を設けたのであり、それが議会なのである。選挙で選ばれるときだけ県民の意思を尊重し、一度、選ばれてしまえば、県民と離れ、議員の都合を第一に活動する等ということは、許されてはならないことである。

  「主権者である県民の議会活動への参加」は、県議会を実質的にも主権者である県民のものにしていくための、不可欠の取り組みである。

  とすれば、議運における会派の調整も、傍聴人を無視した無限の時間の中で、好きなだけ行うというようなものではなく、限られた時間の中で、密度濃く行われるべきものである。

  もちろん、事案によっては、予定した時間どおりに進めることが出来ない問題が存することも否定は出来ないが、それも、傍聴のために待っている主権者である県民に説明して、納得の得られる範囲の変更に限られなければならないことは当然である。

  この神奈川県議会の傍聴問題、とりわけ委員会の傍聴問題の改革は、議会のとらえ方の本質にかかわる大問題と位置づけて、取り組まれるべき、極めて重要な課題である。

3 情報提供制限問題

(1)加藤議員のブログ問題

   2016年5月11日の議運において,自民党は,「共産党はミスが多く,会派として未熟である,だから共産党の代表質問権を制限すべし」,という,議会制民主主義を自ら否定するような提案を行った。

   この提案自体も,議員や会派の質問権が県民からの付託であることを忘れ,議員や政党・会派の所有物であるかのように振る舞う,ありうべからざる提案であるが,このとき,議論の発端となった「ミス」の内容も更に唖然とするような内容だった。

   同日の議運を傍聴した傍聴人は、議運の委員が「加藤議員が,ブログに掲載すべきでない内容を掲載した」「とんでもないミス」との発言を繰り返す様子を目の当たりにした。

   しかし,ここで「問題」とされた「ミス」とは,同日に先立つ5月6日,共産党の加藤なを子議員が「正式決定前の情報をブログに掲載した」というものである。

   この「正式決定前の情報」というのは,以下のブログの内容である。

(以下ブログの記載内容)

 「5月の県議会第2回定例会が始まります。11日は,正副団長会議が9時半からその後,議会運営委員会,本会議,その後永年継続議員の表彰式,議会は6月22日まで予定されています。

   議会の新たな役職,どの常任委員会や特別委員会に各会派の議員が所属するかなどを決めていく議会でもあります。正副議長の選挙,議運選任などがあり,人事案件の採決,常任委員会などが開かれます。その後27日の本会議で議案等の提案説明が予定され,代表質問は31日が初日の予定です。今後本会議で議決され決定しますので,日程の変更が行われることもあります。その時は改めてお知らせします。」(以上ブログの記載内容)

   上記ブログでどこが問題になるのか,理解できる県民はほぼいないだろう。

   ところが,このブログが議運で配布された後の議運の委員の発言は

   「これは中身、ちょっと、よくみると、結構辛らつなことも書いてあるのです。まだ決まっていないようなことも。」(かながわ民進党青山圭一議員)

  「今回の加藤なを子議員のブログでも、正副議長の選挙という風に書いてありますが、正副議長に不信任でもあなた方は突きつけているのかと、そういうふうにも読み取れるのです。」(県政会相原高広議員)

   「加藤なを子議員のブログについての不適切な記載、これも本当に初歩的なものだと思います。我々なら当然こんなことはしないという前提でありますが、これが露呈をしたわけであります。」(自民党小島健一議員)

   と,正副議長の選挙、議運選任などがあることを報じることが、なぜ正副議長に対する不信任に繋がるのか,どうして決まっていないことを県民に知らせることが問題になるのか,ということは一切述べず,単に県民に知らせるのはけしからん,と述べるにとどまる,我々県民には全く理解できないものだった。

しかし、神奈川県議会には,決定していない事項を発信してはいけない旨のルールがあるとのことであり、後日の調査で、

「正式決定等の前に不特定多数の者にその内容を特定して公表することは控えるものとする。」(平成28年3月23日付け議懇で了承)という県議会内でのルールが存在していた(このようなルールが非公式の議懇で定められていることの問題については後述(第5 4議懇の問題)する)ことが確認され、これに反しているということで問題となっていたことが判明した。

しかも、更に神奈川県議会が問題なのは,今回情報提供問題でやり玉に挙がった共産党以外の全ての会派が,このようなルールがあってはならないなどと考えず,このようなルールを公然と県民に対して表明して,このルールを犯した議員を弾劾したことである。

そして、そればかりか、本会議において、前記の「共産党県議団の議会運営に対し、猛省を求める決議」を採択したところ、その理由のひとつとして、「同議員団議員が自身のブログに不適切な内容を掲載する」など「議会運営に携わる交渉団体としては不適格といわざるを得ない事態を引き起こした。」ことが明示されていたのである。

(2)決定前の情報提供制限の問題性

   しかし、そもそも,県議会という場所は,県民の負託を受けた議員の活動の場所であるから,その活動は,全て県民に明らかにされねばならない。

   例えば,次の議会では,どのような事案が取り上げられるのか,これに対してどの会派がどのような意見を有しているのか,といった事柄が県民に伝わらなくては,県民は,これに対して意見を述べることもできないし,自分がその権限を与えた議員がどのような活動をしようとしているのかについて監視することもできない。

   仮に,議会が,今後どのような案件を話し合い,どのような決議を為そうとしているかを県民に対して隠すならば,県民は自らの将来を託した議員が,現実にはどのように活動し,何を考えているか検証することができなくなり,そのような議会はもはや,負託を受けた県民に背を向けた,県民からの監視を拒んだ独善的な存在であると言わざるを得ない。

 だからこそ,このような情報発信は,議会と県民を結び付ける重要なツールであり,議会はこれを充実させることに心血を注ぐべきであって,逆にこれを制限することなどあってはならないのである。

(議員の使命)

第3条「議員は、県民の直接選挙によって選ばれた公職として、常に県政の課題を把握し、公益性の見地から、県全体を見据え、県民の多様な意見を県政に反映させることを使命とする。」

(議員の役割)

第4条「議員は、前条の使命を果たすために、次に掲げる役割を担うものとする。

(3) 民意を県政に反映させるため、日ごろから、県政について、地域又は県域の県民の意見を聴き、及び県民に説明すること。

   しかし,神奈川県議会では,原則に真っ向から反するようなルール,すなわち、いまだ決定していない事項を県民に対して発信してはならない、というルールが存在するのである。

   むしろ県会議員は主権者である県民から付託された代表として、議会で活動をしているのであるから、決定に至る過程を主権者である県民に知らせ、その意向を県議会の議論に反映させていくことこそが必要なのであり、正式に決まるまでは知らせてはならない等というのは、正反対のことと言わざるを得ない。県議会は、主権者である県民のものであって、県会議員のものではない。

   このような発想は、主権者である県民と県議会を切り離し、機関としての議会を議会内多数派のものとして支配しようとする歪んだものと言わざるを得ない。

  したがって、このようなルールは直ちに撤廃されるべきである。

第5 議会運営委員会問題

1 議運の問題

(1)議運が役割を逸脱し、多数会派支配の場に

 現在の神奈川県議会の問題点を検討していくと、それらの少なくない問題が、議会運営委員会(以下「議運」という)の問題であることが判る。

  議運は、本来、議会の運営、会議規則や委員会条例に関することなどを協議・審査する委員会である(地方自治法109条3項)。

  ところが、「議会の運営に関する事項」(地方自治法109条3項1号)の対象範囲は画一的には決することが出来ない。

  このため、神奈川県議会では、その範囲が無自覚に拡大されており、「議会の運営について」ということで、上記の県民企業常任委員会での共産党の加藤なを子議員の「海外水ビジネスは県民福祉の向上に資さない」旨の発言の撤回を迫ったり、共産党の「県議会報告8月号」の「変です!政策や意見が違うから、共産党とは視察に行かないなんて」という見出しの記事の内容について問題であるとしたり、加藤なを子議員のブログの掲載内容が、正式に決定していないことを広報してはならない旨の神奈川県議会のルールに違反しているとして責任を追及したり、共産党の会派の代表質問権を制限することを協議したり等のことが行われた。

更に,2015年11月24日の議運の記録を見ると,共産党が2015年4月統一地方選挙に向けて発表していた「県知事・県議会議員選挙に向けた日本共産党の訴えと基本政策」まで議運の協議の対象として持ち出し,自民党の竹内委員がその中の「オール与党」という記述を問題視して共産党の藤井委員に見解を問うような議論まで行われている。政党が発表した政策を議運の協議事項として扱い,難癖を付けるようなことまで行われているのである。

しかし、これらは、本来、会派の意見の違いや価値観の違いとして尊重され、県民のために、健全にその内容について意見を闘わすべき事項について、多数会派が、合理的な議論に拠ること無く、「交渉会派として相応しくない」等として、力ずくで、多数会派に服従することを迫る運用を行っているものと言わざるを得ない。

このような議論が,議運の役割から完全に逸脱していることは明白である。

  議運が本来の役割を逸脱して、多数会派支配の場になってしまっているということが、議運の中心的な問題として指摘できる。

(2)議運懇談会(議懇)の存在

議運の問題は以上にとどまらない。むしろ、それ以上に問題といえるのが、非公式の議運懇談会(以下「議懇」という)の問題である。この点については、「第5 4 議懇の問題」で項を改めて後述する。

   これらの議運の問題は、現在の神奈川県議会問題の改善のためには、避けて通ることが出来ないものといえ、極めて重要である。

   もっとも、主権者である県民にとって、そもそも議会運営委員会という存在自体が、馴染みのあるものではない。そこで、以下では、議会運営委員会についての基礎的情報を確認した後に、上記で指摘した議運の問題点を改めて検討し、その上で、どうすべきかを明らかにする。

2 議会運営委員会

(1)神奈川県議会の委員会

地方自治法109条は、

「普通地方公共団体の議会は、条例で、常任委員会、議会運営委員会及び特別委員会を置くことができる。

 常任委員会は、その部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行い、議案、請願等を審査する。

 議会運営委員会は、次に掲げる事項に関する調査を行い、議案、請願等を審査する。

 議会の運営に関する事項

 議会の会議規則、委員会に関する条例等に関する事項

 議長の諮問に関する事項

 特別委員会は、議会の議決により付議された事件を審査する。

(以下省略)」

としている。

   そして、これを受け、神奈川県議会委員会条例は以下のように規定している。

(常任委員会の設置)

第1条 議会に常任委員会を置く。

2 常任委員会の名称、所管事項及び委員の定数は、別表のとおりとする。

(常任委員の任期)

第2条 常任委員会の委員(以下「常任委員」という。)の任期は、1年とする。ただし、後任者が就任するまでは在任するものとする。

2 補欠委員の任期は、前任者の残任期間とする。

(議会運営委員会の設置)

第3条 議会に議会運営委員会を置く。

2 議会運営委員会の委員(以下「議会運営委員」という。)の定数は、15人とする。

3 議会運営委員の任期については、前条の規定を準用する。

(特別委員会の設置)

第4条 特別委員会は、特定の事件を審査又は調査するため必要がある場合に限り設けるものとし、次条から第7条までに規定する場合を除き、その特別委員会の名称、付議すべき事件及び委員の定数は、その都度議会の議決により決める。

2 特別委員会の委員(以下「特別委員」という。)は、特別委員会に付議された事件が議会において審議されている間在任する。

 これらの規定に基づいて、現在、神奈川県議会には、常任委員会、議会運営委員会という常設委員会と、臨時的な特別委員会が存在している。

(2)平成3年法改正により明文化された議会運営委員会

 もっとも、議会運営委員会は、平成3年の地方自治法改正(当時の109条の2)で、明文化されたもので、それまで地方議会の議会運営委員会は法律上の根拠がなかった。その理由について、一般的には、国会と違い、地方議会は、イデオロギー対決を含む事項が少なく、政策に意見の違いが少ない。 したがって、議会運営を巡って意見調整をする必要がないと考えられていた。 ところが、時代と共に、地方議会の議事でも政策的対立することが多くなったため、事実上、議会運営委員会や会派代表者会が存するところが増えていった。

   しかし、事実上の存在である限り、そこでの活動は、公費の対象にならず、また、事故があった場合でも公務災害にならない。

   そこで、平成3年の地方自治法改正(当時の109条の2)で、制度化されることとなったと説明されている。

3 議運を通じた多数会派による支配的運用の問題点

(1)議運の権限

  上記の地方自治法109条のとおり、常任委員会や特別委員会の審査事項は、各地方自治体の条例や議会で決めることが出来るのに対し、議会運営委員会の調査・審査事項は、地方自治法で法定されているため、これらの事項に限定されているとされている。

  すなわち、

「3  議会運営委員会は、次に掲げる事項に関する調査を行い、議案、請願等を審査する。

 議会の運営に関する事項

 議会の会議規則、委員会に関する条例等に関する事項

 議長の諮問に関する事項」

  である。

  そして、「議会の運営に関する事項」とはあくまで、議会での議論の手続的な問題に限定され、議案の実質的な内容に関することについては、各常任委員会や特別委員会で議論され、その後に本会議で議論されるというのが、各委員会の役割に関する取り決めである。

(2)権限の逸脱

  ところが、どの議案にどれだけの時間を掛け、各会派がどれだけの質問時間を確保するか等の「議会の運営に関する事項」の調査を行うためには、各議案の内容が判らないと判断が出来ないとし、また、その議案に対して各会派がどのような意見を持っているか、どのような論点があるのか、その論点がどの程度重要性を持っているのか等判らないと、この調査に対する判断が出来ないということで、事実上、議運において、各議案の実質的な内容まで踏み込んだ意見交換がなされている。

  しかも、その結果、どの問題にどれだけの質問時間があてられるかは、実質的な議案の審議の内容にも関わるほどに重要な問題である。とりわけ、少数派による質問、意見の時間がどれだけ確保されるかは、議会の本質にも関わる極めて重要な問題である。

  そればかりか、「議会の運営に関する事項」の対象範囲は画一的には決することが出来ない。

  このため、神奈川県議会では、その範囲が無自覚に拡大されており、「議会の運営について」ということで、上記のとおり、本来、会派の意見の違いや価値観の違いとして尊重され、県民のために、健全にその内容について意見を闘わすべき事項について、多数会派が、合理的な議論に拠ること無く、交渉会派として相応しくない等として、力ずくで、多数会派に服従することを迫る運用が行われていると言わざるを得ない。

  県民企業常任委員会での共産党の加藤なを子議員の「海外水ビジネスは県民福祉の向上に資さない」旨の発言は、自民党をはじめとする多数会派の意見とは異なるものの、それは、民主主義では重要な会派間の意見の違いであることは明らかである。それを、発言の撤回を迫ったり、撤回をしない限り、共産党の議員を議会の視察に参加させない扱いをすることは、「議会の運営に関する事項」であるということで、少数会派に迫ることが許される範囲を明らかに逸脱していると言わざるを得ない。

  また、加藤なを子議員のブログの掲載問題については、前述のとおり、正式に決定していないことを広報してはならない旨の神奈川県議会のルール自体が不合理であり、かつ、後記のとおり、非公式・非公開の議懇だけで、主権者である県民にも存在を知られないようにして決定したものである。そのような主権者である県民を無視した不合理なルールを持つこと自体が問題であるのに、県民に少しでも県議会の活動を知らせようと努力したブログの掲載内容を捉えて、そのルールに違反したとして責任追及をするという運営自体が、本来は問題とされるべきである。

  ましてや、他会派の代表質問権を多数決で制限する等という、議会制民主主義の自殺にも等しいようなことまでも、「議会の運営に関する事項」であるということで、決議しようとしたのであるから、このような神奈川県議会の議運の運用は、本来の役割を逸脱した、多数会派の少数会派支配の場になってしまっているといわざるを得ない。

  神奈川県議会の議会改革は、まずは、その中心的存在である議運自体の自覚的な改革から始められるべきである。

4 議懇の問題

(1)明らかになった議懇の存在

議運の議事録を入手し読み込んでみると、議論の経過が不明であるものが見受けられた。その一つに、2015年度の県民企業常任委員会でのベトナム海外視察をめぐる議論があった。

2015年7月10日(金)午前10時47分に開催された議運の記録によれば、「日程を追加して、海外調査実施委員会の選定についてを議題とし、県民企業常任委員会委員長から議長あてに提出された委員会海外調査実施計画書について、議会局から説明があったのち、このことについては改めて協議することを決定」して、午前11時に休憩に入っている。

   ところがその後会議は長時間再開されず、日延べの手続きのための会議を13時間後の午後11時51分に開催しすぐに休憩に入った後、翌7月11日(土)午前2時22分にようやく再開されたのである。

   この15時間余の間、いったい何がおこなわれていたのだろうか。

   深夜未明に再開された会議の記録によれば、「委員会海外調査実施計画書について、県民企業常任委員会においては、共産党の加藤(な)議員が反対を表明し、採決により多数を持って決した旨の説明が委員長からあったのち、審査に際し、共産党の加藤(な)議員の発言内容及び趣旨を確認するため、会議規則第92条の2の規定に基づき、同議員に議会運営委員会への出席を求め、説明及び意見を聴取することを決定した」とある。

   常任委員会での議員の発言内容及び趣旨を確認するため、議運委員ではない当該議員に議会運営委員会への出席を求め(しかも深夜未明に!)、説明及び意見を聴取するという決定が、なぜなされたのか、その議論の経過は、議会運営委員会の記録にはまったく残されていない。

   この後、午前2時25分に加藤なを子議員が入室し、まるで“査問”のようなかたちで、各議運委員から加藤議員に対する質疑が午前2時56分までおこなわれた。その詳細については、前述(11頁)の発言撤回問題のところで触れたが、そのなかで自民党の竹内英明委員が、議論の経過について述べているくだりがあるので、ここで紹介しておきたい。

 竹内英明委員は、

「私たちは、議運の共産党の代表である藤井委員に再三再四、県民企業常任委員会で発言のあった、加藤議員の発言内容について、一定の説明をいただきたいとお願いをしておりましたけれども、そのことについて一切コメントがなく、この時間までなってしまったというのが今の経緯です。最終的に藤井委員からその説明ができないならば、当事者の加藤議員に来ていただいて、それなりの説明をいただかないと、何をもって反対するのかというのが明確になっていなかった。他の会派については一定の説明をいただいて賛同いただいた。共産党さんはただ反対という理由だけではとても承服できない。その中で藤井委員ができなければ加藤議員においでいただいて、その説明をいただきたいといって、ようやく実現をしたという状況です。」

と述べている。

   つまり、議運の公式の会議の場ではないところで、議論が長時間おこなわれていた、ということが、この発言から読み取れる。

   そして、後日、このベトナム海外視察をめぐる議論が蒸し返された2015年11月30日の議運の会議録をみると、その議論の場が議運懇談会(略して議懇)であることが明らかになる。この11月30日の議運で、自民党の長田進治委員が

「今回の県企(=県民企業常任委員会)の視察の議論の中で、加藤なを子議員が明確に、これは県民福祉の向上に資するとは思えない、だから反対なのだという話でした。委員会の政策としては反対。それについて議運懇談会の中で共産党も含めて議論をしました。」

などと発言している。

それを受けて共産党の藤井委員が

「7月10日ですか、議会運営委員会が午前中にまず1回開かれて午後いつ開かれるのかと思っているうちにこの非公式の場で、皆さん議懇とおっしゃっているから私も議懇といいますけども、何時だったのかも覚えてないし、議懇だということで公式の記録もないと思うのですけれども、そこで県民企業の加藤なを子議員の話が出てきたのですけれども、そのときに私は議論をするなら正式な場でやってほしいと、こういう場では議論できませんということを言いました。」

などと発言している。

長時間の休憩を経て深夜未明に会議を開催し、そこで常任委員会での議員の発言内容及び趣旨を確認するためとして、当該議員を呼び出して査問のような質疑をおこなう、このようなことは、議運のあり方として異常であると言わざるを得ない。 そしてこうした議運の異常なあり方に、議運懇談会(議懇)が関わっていることが明らかになった。

(2)議懇の実態

ア 議運議事録に出てきた「議懇」

しかし、団支部で調査をしても、法令上、「議運懇談会」「議懇」という制度についての規定は存在しなかった。すなわち、「議懇」というのは、法令上、根拠を持たない制度であり、文献等においても、この議懇について触れたものは見当たらなかった。それにもかかわらず、「議運で議論を」するために、「議運懇談会の中で議論」したとされており、神奈川県議会では、運営上、重要な役割をしているらしいことが推測された。

   そこで、団支部として、「議懇」について調査の必要性を感じ検討したところ、議懇についての資料が存在することが判明し、早速、取り寄せた。

  その結果、神奈川県議会における、この議懇の制度は、民主主義の見地からは、非常に問題と言わざるを得ない存在であることが判明した。

イ 判明した議懇の実態

県議会議会局から提出された資料の検討等を通して、以下の事実が判明した。

(ア)議懇では、その後に行われる議運の議論がほぼそのまま話し合われており、議運で提出される資料と同じものが配布されていることが多い。

(イ)議懇の会議は非公開の『密室協議』

(ウ)議懇には議事録は存在しない。

 (エ)法的な根拠を持たない集まりである

(オ)議会の進行スケジュールに組み込まれ,議会局職員が職務としてかかわっている

(カ)「議懇限り」のルールも存在する

 以下、順次、その要点を述べる。

ウ 議懇の実態について

(ア)非公式の実質的な議運

    まず、「議運懇談会」、あるいは、議員の中では「議懇」と略称で呼ばれているようであるが、その構成員は議運の委員(15人)によって構成されているものだった。

    そして、議運に先立って開催され、その内容は、議運で議論されるべき内容と、ほとんど同一の議題であった。しかも、神奈川県議会局の職員も参加し、議会局が作成した詳細な資料が配付されていることが判明した。

(イ)議懇の会議は非公開の密室協議

   そして、議懇の開催は県民には知らされず、傍聴も認められていない。県民は、議懇の会議開催どころか、存在すら知ることできない。いわば秘密会議であり、“密室協議”とも言うべきものである。今回の団支部の調査により、初めてその存在が県民の前に明らかになったのである。

(ウ)議懇には議事録は存在しない。

そして、議懇では、事前に議会局事務局の作成した「想定メモ」は存在するが、議事録は存在していない。

もっとも、公開された「想定メモ」には、議懇での議論の結果を記載したと推測される、太字の記載も散見される。

しかし、記載されているものも存するという程度のものであり、かつ、例えば、平成28年5月11日の議懇では、共産党の代表質問権制限について議論がなされたはずであるのに、同日の議懇の資料には、一切その記述が存在していない。

したがって、任意的に(恣意的に)結果について記載してあるものが存するという域を超えておらず、議論の経過を記した議事録は存在しない。このため、主権者である県民が、議懇において、どのような議論がなされたかを確認することは、保障されていない。

 (エ)法的な根拠を持たない集まりである

議懇については,法律はもちろん,条例・規則・規程・要領などでの位置付け,定めが全く存在しない。つまり,法令上の根拠のない、任意の「集まり」でしかない。

「議懇」は,神奈川県議会において公式には存在していないのである。議懇が非公開で議事録も存在しないというのは,公式には不存在であることの裏返しなのかもしれない。

 (オ)議会の進行スケジュールに組み込まれ,議会局職員が職務としてかかわっている

ところが、そのように法令上の根拠がなく、非公開で議事録も存在せず、公式には存在していないはずの議懇が、神奈川県議会の運営上不可欠なものとして位置づけられているのである。

例えば、平成28年5月11日に開催された議懇では、「平成28年度第2回定例会における役員の改選等の進行想定(案)」が議題とされ、その中で、「議運懇談会」がスケジュールの一部として位置づけられている(添付資料1)。

そして、議懇の運営には、議会局職員が職務として関わって様々な資料も作成しており、その資料作成のための経費は、議会局のコピー費などから、つまり県民の税金からなる公費から支出されているとのことである。

このように議懇は、一方では非公開で議事録も存在せず公式には存在しない扱いでありながら、もう一方では従事する議会局職員の人件費や資料作成経費は公費から支出されているという、実に矛盾した存在なのである。このようなことが許されるのだろうか。

(カ)「議懇限り」のルールも存在する

さらに、平成28年3月23日に開催された議運懇談会(第2回)の資料によれば(添付資料2)「議会運営に係る正式決定前の広報について」と題された書面が存在する。

   そこでは、「正式決定等の前に公表を控えるべき広報」の「適用例」として「議会運営委員会での発表前に、ホームページやブログ等で、代表質問等を行うことを掲載することは、控えるものとする。」とされ、事前に公表すべきでない情報の具体的の一つとして、質問・質疑に際し、通告する事項、代表質問通告書、一般質問通告書、予算委員会質疑通告書なども記載されている。

   前述の共産党の加藤なを子議員のブログが問題視された「決まったこと以外公表しない」ルールについては、ここで挙げた議懇に根拠があるだけで、他には一切の根拠が存在しない。すなわち、このルールは、非公式の議懇限りにおいて存在するこの決定に根拠があるだけで、公式の議運や議会等において、改めて確認することはないものとして扱われている。

このように、議懇は議運の協議事項をあらかじめ議論するだけでなく、議運では協議されることのない「議懇限り」のルールや協議事項も存在するのである。ところが、この議懇で決められた非公式のルールが、あたかも公式のルールであるかのように、それに違反したということで議運でも問題とされ、更には、「共産党県議団の議会運営に対し猛省を求める決議」の一要素として問題とされる等、神奈川県議会全体を拘束しているのである。

(3)議懇の問題点

ア 県民に開かれた議会とはいえない

   上記のとおり、存在自体を県民に知らせず、非公開で会議をおこない、議事録も残さないという議懇のあり方は、まさしく“密室協議”そのものであり、県民に開かれた議会の姿とは到底言えないものである。

ところが、議懇において、あたかもこれが公式の場であるかのように議論がなされており、更には、この場での議論が県議会全体を事実上拘束しているのである。

   議会基本条例では、前文で

「神奈川県議会は、これまで県民に開かれた、地方分権の時代にふさわしい県議会の在り方を追求し、不断の議会改革を推進してきたところである。」

第1条(目的)で

「県民に開かれ、充実した県議会の実現を図り」、第2条(基本理念)で「常に県民とともに歩む、地方分権の時代にふさわしい県議会を目指し」

と定めている。議懇の在り方、存在そのものについて、こうした議会基本条例の立場から、深く吟味される必要がある。

イ 公式の場である「議会運営委員会」の形骸化をもたらす

 上記のとおり、議運で協議される議題が、あらかじめ非公開の議懇で議論されているということは何を意味するのだろうか。これは、実質的な議論は、非公開の議懇でおこなわれて意思統一がなされ、議運では結論が確認されるだけ、つまり、公開された公式の場である議運の形骸化を意味する。これでは、当該合意に至る経過が県民には全く明らかにならない。

 二元代表制における議会の役割は、異なる価値観の存在を前提に、その相互の議論を通じて、意思決定に至るというプロセスを持っているということである。したがって、最終的には多数決によって、議会の意思を決定することになるとしても、その結論ではなく、結論に至る議論の過程こそに、独自の重要性を持っている。そこでは、主権者である県民に、その過程の情報と議論を共有してもらうことが重要であり、それが、その後の選挙の投票行動と密接に結びついて、主権者である県民の意見が正しく代表される議会を実現することになるのである。そのことは、県政政策についてのみならず、県議会の運営のあり方についても、言えることである。

  したがって、議会における十分な審議と、主権者である県民に対するその審議の公開は、二元代表制における議会の極めて重要な役割である。

 ウ 非公開の場でのやりとりによる多数派支配

   上記のような、非公開の場で実質的な議論を行い、県民の目に明らかになる「議運」を形骸化するような仕組みをなぜ、神奈川県議会は作り上げたのだろうか。

平成3年の改正は、それまで法定されておらず、公費の支出の対象にもならなかった議運を、法定化し、その存在を明らかにするとともに、公費を支出し、公正な議会活動を行わせるために行われたはずである。

公正な議会活動として、公式の公開された会議で議論し、何回かの会議を重ねて合意を形成し最終的な結論を出す、そのプロセスは、議論の経過に対する世論の動向も反映し、多数派が横暴なことを行なおうとすれば議会外からの批判を受け、当初少数派であったものが多数派に転ずる可能性を含んでいる。

ところが非公式の密室協議は、世論の動向は反映せず、県民の目の届かないところで多数派が少数派を威圧して議会全体をコントロールする拠点となりうるのである。非公式の密室協議の場を常設するかたちである議懇は、議会制民主主義に反するものと言わざるを得ない。議会運営委員会を法制化した平成3年の地方自治法改正の趣旨にも背くものである。

(4)議懇は廃止し,公開の議運で堂々と議論を

 このように県民に隠れた場で実質的な議論を行って議会運営委員会を形骸化する議懇は、開かれた議会をめざすという、議会基本条例に掲げた議会改革の方向性に反し、議会を県民から遠ざけて多様な県民意見を反映することを妨げるものであり、多数派による議会支配を固定化する弊害を生じかねない。

 また、非公開で議事録も存在せず公式には存在しない扱いでありながら、議会局職員が従事することによる人件費や資料作成経費を公費で支出しているという、公私の区別がされていない状況は、解消されなければならない。

 よって、このような議懇という悪弊は廃止し、公式の議会運営委員会で、県民の前で、堂々と議論をおこなうことこそ、議会基本条例に掲げた

「県民に開かれ、充実した県議会の実現を図り」(第1条目的)、「常に県民とともに歩む、地方分権の時代にふさわしい県議会を目指」す(第2条基本理念) という方向性に合致するものである。

第6 共産党議員団の委員会視察排除問題

1 “グループ分け”の発端

 現在,神奈川県議会では,常任委員会と特別委員会が毎年実施している委員会視察(県内及び県外調査)から共産党委員を排除して実施している。

  その発端となったのは,2015年8月に実施された県民企業常任委員会のベトナム海外視察(8月24日~27日)をめぐる意見の対立であった。共産党委員が7月に開催された同委員会において「水ビジネスについての海外視察は県民福祉の向上につながらない」と見解を述べたことに関連して、同年7月13日に団長会(県議会内の交渉会派の団長により構成される)が開催され、自民党が「県民企業常任委員会の海外調査計画をめぐる議論をつうじて、県民福祉の向上についての考え方が共産党と他会派とで異なることがわかった」ので、「実効性の高い委員会調査を行うために、県内調査と県外調査についても共産党委員と他の委員とを別にして実施する」ことを提案した。意見の違いをもって委員会の公式な行事から意見の違うものを排除すると言う非民主的な提案であった。共産党は反対したが,共産党以外の団長の一致の意見という多数決で決定された。その後、この団長会決定にもとづいて、2015年度、2016年度と、委員会視察の“グループ分け”がおこなわれてきた。

   このことについて共産党県議団は、「委員会視察は全員でおこなうことが基本」「“グループ分け”という名の事実上の排除であり、許されない」と反対してきた。2016年9月5日には「委員会調査(視察)からの日本共産党委員排除をやめ正常化を強く求めます」との声明を共産党県議団ホームページ上に発表し、正常化を求めている。またそれに先だって、海外視察について「神奈川県議会・委員会海外調査についての見解」を2016年8月8日に発表している。

2 “グループ分け”その実態は差別的排除

   そもそも委員会として実施する視察は、委員全員の参加が基本であり、委員全員で施策や政策課題についての認識を共有し、それをベースに様々な政策的立場から議論を深めるところにこそ意義がある。「考え方が違うから“別々にグループ分け”して実施した方が効果的」などという主張は、様々な政党・会派の議員、政策的立場を異にする議員で構成されている議会の委員会として行う視察には当てはまらない暴論と言わざるを得ない。

   現在行われている“グループ分け”は、「県民福祉の向上について考え方が異なる」ことを理由に、共産党委員1名と他の委員とを“グループ分け”するもので、政策的立場によって,意見の違いによって委員をグループに分けるということである。それは,議員を政策的立場によって,意見の違いによって差別するものであり、議員各人は互いに対等平等の立場に立つと言う原則に反し、議会のあり方としてはあってはならないことである。

3 “グループ分け”は委員会審査の公平性を損なう

(1)委員会審査と委員会視察

委員会の審査は、当然のことながら委員全員の参加によりおこなわれている。委員会審査への参加は、議員の基本的権利であり、「考え方が異なる」ことを理由に、多数決で特定の会派・委員を審査から排除するなど考えられないことである。それでは視察という活動ならば、それが許されるのだろうか。委員会視察は、委員会審査とは切り離された別個のものであるから、「考え方が異なる」ことを理由に、多数決で特定の会派・委員を視察から排除することも許されるということなのだろうか。

(2)グループ分けによる弊害

   “グループ分け”による弊害も生まれている。

   例えば,2016年8月5日,環境農政常任委員会が県内調査として県立フラワーセンター大船植物園の視察をおこなった。この施設については、同年6月,県議会に「県立フラワーセンター大船植物園の観賞温室の廃止など植物園機能を壊す計画の撤回を求める」趣旨の陳情が3件出されていた。審査をおこなった環境農政常任委員会では、陳情の了承(賛成)を主張したのは共産党のみで、他会派が継続審査を主張して継続審査となっていた。そうしたなかでおこなわれたこの委員会視察は、継続審査の一環としての現地調査であり、その意味では、まさに陳情審査の延長線上にあった。しかしながら,この委員会視察は,共産党委員を除外して行われたのであり,まさに,委員会審査の場から共産党委員が排除されたことにほかならない。

   この委員会視察の後、9月と10月に開催される環境農政常任委員会で、継続審査とされた陳情が再び議題となった。その議論に臨むうえで、8月5日の現地調査で県当局・園職員から説明を受け意見交換をおこなった他の委員と、その視察から排除されその時の説明や意見交換の内容を知ることができない共産党委員との間には、認識上の情報格差が生じており、委員会運営の公平性を損なうものであったことは明らかである。

   更に別の事案では,同年9月2日,文教常任委員会が、県立えびな支援学校と県立横浜国際高等学校への視察(県内調査)を実施したが、その際も共産党委員は視察から排除された。視察直後の9月の県議会に「県立横浜国際高等学校整備工事設計費」が補正予算として提案された。文教常任委員会に付託される補正予算審査の一環としておこなわれた視察であり、そこから共産党委員は排除されたのである。共産党委員は、その後独自に、委員会審査に先立ち、県立横浜国際高等学校を視察したが、それでも視察時の意見交換の内容等について情報格差が生じていることは想像に難くない。

   以上の例で明らかなように、視察も委員会の活動である以上、審査から切り離されたものではなく、広い意味で審査の一環としておこなわれるものである。そうである以上、特定の会派・委員を、「考え方が異なる」ことを理由に委員会視察から排除することは、委員会審査における情報格差を生じさせ、委員会審査の公平性を損なうものと言わざるを得ない。

4 異なる意見の存在を認めない、多数派による「制裁措置」

   ここで改めて、事の発端となった、2015年度の県民企業常任委員会ベトナム海外視察をめぐる意見の対立の扱いについて、考えてみたい。

   共産党委員の「水ビジネスについての海外視察は県民福祉の向上につながらない」との発言の撤回を自民党委員が求め、議会運営委員会を深夜未明に開催してまで執拗に発言の撤回を求めた。意見の鋭い対立であったが、ここではどちらの意見が正しいかを論じるものではない。議会であるから、会派や議員の政策的立場により、様々な見解の相違が生ずることは当たり前である。問題なのは、そうした見解の相違が生じたときの、扱い方である。

   今回の事態は、意見の違いや少数意見の存在を認めず、一方の側が他方の側の発言の撤回まで求め、それに応じなければ多数決をもって、委員会視察全般から共産党県議団を排除し閉め出したということである。いわば多数派による制裁措置として、共産党県議団の委員会視察に参加する権利を奪い、委員会審査における情報格差を共産党委員と他の委員との間に生じさせ、委員会審査の公平性を損ない、共産党県議団各議員が県民の負託を受けて活動するうえでの障害や制約を設けたものと言わざるを得ない。

5 多様な民意を反映する議会の使命に背く暴挙

  そもそも議会とは、「考え方が異なる」多様な党派・議員で構成されるからこそ、多様な県民の意見を反映するという住民代表機関としての役割を果たすことが保障されるのである。神奈川県議会基本条例第7条は、「県議会は、民意を代表する議員の多彩な議会活動を通じて、県民の多様な意見を集約し、県政に適切に反映させることを使命とする」と県議会の使命をうたっている。これに対して、意見の違いや少数意見の存在を認めず、「考え方が異なる」ことを理由とした委員会視察の“グループ分け”という名の共産党委員排除は、こうした多様な民意を反映する議会の使命に背き,議会制民主主義を蹂躙する暴挙であり,決して許されることではない。

第7 最後に

   今回、神奈川県議会、特に議運の問題点を検討する中で、しばしば、首長に対抗する強力な「機関としての議会」であるためとして、本来、議会にとって最も重要なはずの議論の過程や県民の多様な意思の反映の機能を欠落させてでも、議員間の結束と統一だけを強調するような考え方が見受けられた。

   しかし、このような発想では、主権者である県民と県議会を切り離し、「機関としての議会」を議会内多数派のものとして支配し固定化する途に向かわざるを得ない。

   二元代表制における議会の役割は、唯一の「議事機関」(憲法第93条第1項)として、異なる価値観の存在を前提に、その相互の議論を通じて、意思決定に至るというプロセスを持っているということである。議会がこの役割を十分に果たすことが出来るよう、改めるべき点は速やかに改め、県民に開かれた、県民のための議会改革が行われるべきである。

                           以上。 

神奈川県議会の議会運営の改善に関する意見書

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          2017年5月11日

          編集 自由法曹団神奈川支部

          発行 自由法曹団神奈川支部

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