10年超が経過
住民にとって良質な公共サービスや公共建築物を提供することを目的に、そこで働く労働者の適正な賃金と労働条件も確保することを定めるのが「公契約条例」です。
川崎市では全国で2番目、政令市としてはもっとも早く2011年4月から施行されています。10年が経過したことを契機に、さらにより良い制度にしていくために、「川崎市公契約条例シンポジウム」が11月22日に開催され、132人が参加しました。事業者などの参加もありました。
全建総連の長谷部・賃金対策部長が講演。条例制定が全国的に広がり、賃金の下限額を定めた条例が27自治体、理念を定めた条例が51自治体になっていることを紹介。川崎市において報酬下限額などを決める審議会が設置されたことで、直接労働組合がかかわり、制度の改善にもつなげる筋道ができたことの重要な成果を強調しました。
公契約条例を制定することにより対象の建設工事で重層下請構造が解消されている成果を報告。一方、労働者の認知や理解が低く、賃金の下限額以下で働く労働者がいる課題も指摘し、「制定してからの運動が大事」と述べました。
世帯が基準
シンポジウムでは、3人が報告。専修大学の兵頭教授は、公契約条例の源流がアメリカの「生活賃金(リビング・ウェッジ)条例」にあり、そこから「最賃15ドル運動」などが発生して成果に結びついていることを紹介。アメリカでは、生活賃金の水準を決めるうえで、単身者ではなく4人世帯が基準になっていることの重要性も指摘しました。
建設政策研究所の市村氏は、川崎市の条例の成果について、制定以降の累計で、工事では154件が対象となり11万人超が従事、業務委託では2035件で約18万人が従事しており、適正賃金の確保に寄与しているとしました。同時に、対象範囲を小規模工事に広げることや、条例を履行しているかの確認、そのための行政の体制強化などを課題として指摘しました。
時間額1202円に
東京地評の中村氏は、都内の条例制定と運用を紹介。都内では、13自治体で賃金下限額を定める条例が制定されており、理念だけ定めていた自治体でも審議会での議論などを通じて賃金下限額を新たに設定する自治体が生まれていることを報告。審議会では、諮問されたことや下限額を決めるにとどまらず、公契約の適正化や実効性の確保にむけた様々な建議も行われ実現していることも紹介されました。
また、今年の新宿の審議会の議論で、業務委託の下限額が1080円から1202円まで11%以上も引き上げられたことを紹介。理由として、区内の募集時給調査を行い1200円程度であり、低すぎる下限額は積算価格にも悪影響を及ぼすことから、使用者側委員も含めて賛成したと述べました。
会場からは、「条例制定で事業者の業績はどうなっているか」、「民間企業の取引に拡張できるか」などの質問が出され、それぞれ丁寧にわかりやすい回答がされました。